ARCHITECTURE

中川 宏文

2021.05.20

「建築がある日常」05

前回の記事で「スイスー北イタリア縦断の地図」を掲載し忘れていましたのでご紹介します。地図の北側にあるチューリッヒからスタートし、北イタリアのコモまで南下した後、別ルートで北上し、チューリッヒまで戻るコースです。

さて、前回に引き続き、スイス・チューリッヒの建築を紹介していこうと思いますが、今回は最近増改築工事が終わったスイス国立博物館(Landesmuseum Zürich)をご紹介します。

博物館旧館は1898年にチューリッヒ出身の建築家・グスタフ・グル(Gustav Gull)によって建てられました。その建物の増改築コンペで、クリスト&ガンテンバイン(Christ & Gantenbein)が最優秀賞に輝き、2002年にそのデザインが発表されました。

しかし、その後、高額な建設費や、本館と対照的なコンクリートの無機質なデザインから、反対運動などが起こります。最終的にはチューリッヒ州の国民投票まで行われた末、2016年にようやくオープンを迎えました。旧館の内部空間もリニューアルが行われ、2020年に改修が終わりました。

google earth

航空写真を見ると、既存部分と増築部分がよくわかります。

既存建物右下の広場付近が入り口となっており、増築部分→既存部分のように反時計回りに館内を見学します。

北側の広場から増築部分のピロティを通して既存部分をみた写真です。

この孔は、先端の高い部分で約15mあり、そこから斜めの天井が地面まで下がってきます。この1つの要素の中に、スケールアウトした空間とヒューマンスケールの空間が共存し、それに加えて、自然光がコンクリート天井に鈍く反射することで、その空間に明暗のグラデーションが生まれています。

そして、その空間の質を活かすようにベンチが置かれ、人の居場所ができています。

建築の規模は違いますが、この斜め天井の持つ空間性は、2年前に〈O.F.D.A.〉で設計担当した坂牛邸の地下空間の質と共通する部分がありました。

坂牛邸(撮影:Rino Kawasaki)

内部空間はというと、幾何学的にはチューブ状のひとつながりの建築でありながらも、上下左右に屈折した形状によって、展示空間は適度に分節されていて、次の展示空間へ流れるように進むことができます。

大きな美術館や博物館に行くと、展示物の多さに途中から疲れてしまうことがよくありますが、展示物に合わせた空間のスケール、明暗、仕上げなどが丁寧に操作されていることで、最初から最後まで飽きることなく見学できました。

旅行に行くといろいろな美術館や博物館へ行きますが、今回のような、建築と展示がしっかりと関係性をもっている建物を体験したのは久々な気がします。

生憎、写真を撮り忘れてしまったのですが、既存部分の建築や展示空間、展示方法もとても素晴らしいです。展示什器ひとつひとつが丁寧にデザインされていて、展示物をよりわかりやすく、美しく見せる仕掛けが至る所に施されていました。

最後に、階段室の照明が格好良かったので紹介します。左下に見える手摺と同じディテールで統一されていて、手摺がそのまま照明となっているような見せ方をしています。こういう細かなところまで妥協せずに設計できると、建築の質が全然違うものになるのだろうなと勉強になりました。

さて、次回はチューリッヒ(Zürich)を出発して、ルツェルン(Luzern)を目指します。
お楽しみに。

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中川 宏文

1989年長崎県生まれ。熊本大学工学部建築学科卒業後、東京理科大学大学院・工学研究科建築学専攻に進学。オーストリアの建築設計事務所でのインターンシッフなどを経て、2016年に大学院を修了し、坂牛卓教授が主宰する設計事務所〈O.F.D.A.〉に就職。それと同時に、地域おこし協力隊として、東京と富士吉田市を毎週行き来する二拠点居住&ダブルワークをスタート。現在もその働き方を継続しつつ、富士吉田市では、建築設計活動だけでなく、行政や地元企業、大学生と共に、まちづくりに関わる企画立案や構想作成などに取り組んでいる。これまでの主な設計事例は「ふじよしだ旧製氷工場コンバージョン」にて〈ふじよしだ定住促進センター〉や〈FUJIHIMURO〉の設計、「坂牛邸」の設計など。

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