みなさん、こんにちは。
「地域福祉」という観点からコミュニティデザインを考えている、上田潤です。
社会保障が手厚く、高福祉なイメージがある北欧諸国。
今回は、オランダで誕生した「ポジティブヘルス」という新しい健康の概念について記録したいと思います。
「ポジティブヘルス」の誕生
「ポジティブヘルス」の誕生は、2011年のことです。当時オランダの家庭医だったマフトルド・ヒューバーさんが、あるイギリスの医学誌の中で提唱したことから始まりました。ヒューバーさんは「ポジティブヘルス」について、次のように定義したのです。
「社会的、身体的、精神的な問題に直面したときに適応し、本人主導で管理する能力としての健康」
そして「ポジティブヘルス」の定義に対して、次のようなコンセプトを打ち出しました。
「病気や障がいがあっても、周りの力などを支えにして、気落ちすることなく人生を前向きに歩いていけること、その力こそが新しい健康のコンセプトだ」と。
”健康”を「状態」としてではなく、「能力」として捉え直すことを提案したのです。
ポジティブヘルスの構成要素
ポジティブヘルスは、以下の6次元で構成されます。
- 身体の状態
- 心の状態
- 生きがい
- 暮らしの質
- 社会とのつながり
- 日常機能
ヒューバーさんは、この6次元で自分の状態を把握する「クモの巣」と呼ばれるレーダーチャートを考案しました。
ヒューバーさんが立ち上げたNPO法人IPHのホームページからダウンロード可能
「ポジティブヘルス」の活かし方
大切なのは、このチャートの数値が高ければ健康ということではないということです。
あくまでも、自分がどんな状態か把握し、どうなりたいか、そのためにはどうするのがいいかを自分で考え、実現していくサポートツールなのです。「こういう状態が健康」という正解はありません。
「ポジティブヘルス」の実践例
このチャートを参考に、医療・介護・福祉の現場では、本人の意思を尊重したケアが行われているのだとか。専門職の方々は、あくまでサポート、主体は本人にある、というわけです。
ヒューバーさんの「ポジティブヘルス」提唱以降、その考え方や活動はオランダ各所へ波及し、今では自治体の半数以上が「ポジティブヘルス」を掲げて、医療や福祉の新しいコミュニティデザインに取り組んでいるといいます。
健康を“捉え直す”
2011年に提唱されたヒューバーさんの「ポジティブヘルス」。それまでの健康の概念とは、どのような違いがあるのか、具体的に見ていきましょう。
1947年に採択されたWHO憲章は、前文において「健康」を次のように定義しています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(良好な)状態にあること」
参照:『公益社団法人日本WHO協会HP』
健康=肉体的・精神的・社会的に”良好な状態”として捉えています。
なかでも私たちは、“健康=身体的に良好な状態”をイメージすることが多いのではないでしょうか(最近はうつ病などの認知が広まり、精神的に良好な状態というイメージも浮かびやすくなりましたね)。
日本の医療・介護・福祉の現場でも、身体的に満たされた(良好な)状態であることに焦点を当て、治療やケアを行う傾向があるかもしれません。たとえば、体に悪いからと、好きな食べ物の摂取を抑えたり、怪我をしたら危ない、症状が悪化しないように行動を制限したりということはよくあります。健康(身体的・精神的・社会的)のなかでも比較的優先されるのは、“身体的”な健康。社会的・精神的な側面は、もしかしたら良好な状態とはいえない場合もあるかもしれませんね。
「ポジティブヘルス」は自分の選択を尊重する
「ポジティブヘルス」は、健康=肉体的・精神的・社会的な問題に適応し、”本人主導で管理する能力”として捉えます。
この捉え方には、ヒューバーさんの現代社会に関する、とてもシンプルで、当たり前のメッセージが込められているように思います。
「サービスや制度からの受け身でなく、もっと自分から主体的に、自分の良好な状態に関わっていきましょうよ。その中でいろんな困難はあるけれど、前向きにどうするか考え、近づいていけばいいんだよ」と。僕はそんな風に受け取りました。
こうして、「WHOの健康」とヒューバーさんの「ポジティブヘルス」を比較してみると、多様化した社会の中で健康に向かうためには、単一的なサービスや制度だけでは問題解決できなくなっていること、自分の健康について、自分自身がより主体的に関わっていく必要性が高まっていることがいえるのではないでしょうか。
僕も早速、「クモの巣」のレーダーチャートを使って、「ポジティブヘルス」の世界に足を踏み入れてみたいと思います。
それでは、また。