以前の連載でご紹介した長野県小諸市の介護施設、〈みんなの家タブノキ(以下タブノキ)〉さんで行われた『開業一周年記念セミナー』に参加してきたことをレポートします。
介護業界の有名人、三好春樹さん、坂野悠己さん、小林敏志さんをゲストに、タブノキ代表深山さんを加えた4名がセミナーの講師陣。それぞれから基調講演の後、講師陣を囲んでの座談会という流れで執りおこなわれました。
講師のタレント力もあってか、現地で60名、オンラインで40名ほどが全国から参加し、介護について共に学び、考える一日となりました。
セミナーでの学びに先立って、少し講師陣のご紹介をしたいと思います。
三好春樹(みよし はるき):
〈生活とリハビリ研究所〉代表 / 〈一般財団法人考える杖〉代表理事
各地の介護施設に関与しながら、年間200回の講演活動や執筆活動を通して、介護の本質を問い続ける第一人者。
坂野悠己(さかの ゆうき):〈総合ケアセンター駒場苑〉 施設長
介護施設でのバイト経験から、現場の劣悪な生活環境に憤りを感じ、変革の必要があると考え介護の世界に。駒場苑では7つのゼロ(寝かせきり、オムツ、機械浴、脱水、拘束、誤嚥性肺炎、下剤)を掲げたケア改革を実践。現在では施設長の傍ら、介護に関する講演活動も積極的におこなっている。
小林敏志(こばやし さとし):〈宅老所はいこんちょ〉代表
10年間特別養護老人施設などで勤務した後、祖母を自宅で看取った経験から、「家で暮らすお年寄りのサポートがしたい」と、生活リハビリ型小規模デイサービス〈宅老所はいこんちょ〉を立ち上げる。
「できる限り最期まで、その人らしく生活できるように支えること」を使命としている。栃木県で毎年100名規模の介護セミナーを開催するほか、各地での講演活動でも活躍。
深山直樹(みやま なおき):〈みんなの家タブノキ〉代表
前職時の介護現場に窮屈さを感じ、「高齢者もスタッフも障害のある人もない人も、より過ごしやすい場所をつくりたい」と考え起業。古民家を自分たちの手で改修し、介護施設にとどまらない地域の集いの場づくりを実践している、介護界の新星。
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セミナーを通して多くの学びがあった中で、とくに印象に残ったことをメモ書きのように記します。
◯介護とは
講演の中で小林さんがこのように説明してくれました。
介護とは「普通の生活」と「その人らしさ”趣味・楽しみ・生きがい”」を一緒に取り戻し、できる限り最期まで守っていくこと。
普通の生活とは、「口から食べる」「トイレで排泄」「個浴」など、今までその人がしてきた生活のこと。老いや病気で体が不自由になっても、この生活を取り戻そうとすること、その人らしさを守っていこうとすることに介護の本質がある。
◯介護職とは
介護職の専門性についてのお話も印象に残っています。
介護職の専門性は、目の前の高齢者とその家族の生活をづくりにあるため、常に試行錯誤が求められる非常にクリエイティブな仕事。
介護現場や介護教育では、考える前にどうするべきかを教わるため、自分の頭で考え続けるという姿勢が大事。その姿勢を失うと、介護の本質からどんどん遠ざかってしまうということでした。
◯介護における大事な視点
・そのケアに人の尊厳はあるか、本人に焦点があたってるか
・常識や慣習に対し、本当にそれでいいのかを疑い、自分の頭で考える
・老いや認知症は異常ではなく自然なこと。治療ではなく、受け入れて付き合っていく前提で、それぞれの形にあった必要な依存をつくっていけばいい
僕はどうやら介護というものに対して、本当に無知だったようです。正直にいうと、このセミナーを受けるまでは「介護=身の回りのお世話」くらいのイメージでした。介護とはなんだろうとちゃんと考えたこともなかった。
介護職は、必要な人、ひいてはその家族に直接作用して、生活づくりをするクリエイター。これほど人の人生に影響力のある仕事があるだろうかと驚きました。
たとえ老いや認知症で意思表示が難しくなっても、見えないものを感じたり、想像したりして行動ができる。些細な仕草や表情の変化から、目の前のおじいちゃん・おばあちゃんの心を見つけることができる仕事。
介護というものを明るく再認識できたことが今回の一番の収穫でした。
介護はとってもクリエイティブ。
P.S.
コロナ禍の中、リスクをとりながらも素敵なセミナー開催に尽力してくださった、深山さんはじめタブノキスタッフのみなさん、本当にありがとうございました! 講師の三好さん、坂野さん、小林さん、深山さん、貴重な学びを与えてくれたこと、心から感謝申し上げます。