藤崎 仁美

2022.09.21

草木とともにあるくらし 06

9月の富士吉田

暑さも過ぎ、夕方や朝方は肌寒くなってきました。

先月のお話になりますが、8月末には「よしだの火祭り」を見に行くことができました。

お神輿をかつぐ人たちの熱気や、見ている人たちの嬉しい気持ちが溢れていて、神社のなかも外も活気が満ちていました。

こうした文化が引き継がれているおかげで、富士山への感謝を今一度思い出せる。実はそれはとても、ありがたいなと、燃え盛る火を見ながらしみじみ思いました。 

そうして火祭りを終えると、富士吉田には秋がやってきました。

毎年、火祭りを境に、短い夏が終わっていくのを実感します。

・・・

9月は、はじめての場所へお邪魔しました。それは市内の本町通りにできた〈よしだの暮らしの相談室〉。

運営は、〈富士吉田定住促進センター〉。

移住希望者の方や地域住民の人たちが気軽に立ち寄れる場として相談窓口が開設されたそうです。

ここでは、毎週木曜日午後3時から4時に、「まちなかお茶会」がオープンな場として開かれていて、〈定住促進センター〉の渡邊麗さんにお会いする用事もあったため、行かせていただいてきました。

外から覗けるガラスの扉のむこうに、明るくて開放感のあるきれいなスペースがあり、大きい木のテーブルで、お茶をいただきながら色々と近況などお話できました。

ちょうど、近所のお子さんが来て、定住促進センターのお姉さんたちに見守られながら宿題を頑張っていたり、おばあちゃんが道を通り、挨拶していかれたりと、なんだかとても和やかな時間でした。

子供から大人まで、いろんな世代の人が、顔を合わせられるのも、私にとっては珍しい体験で、今の小学生ってこういう勉強しているんだなぁ、なんて感心したり。

移住などについて、真剣に相談するほどではないけど、ちょっとお話してみたい、というような方にとっても気軽に入りやすく、話しやすい、素敵な場だなと思いました。

9月の十五夜

私はお月さまを眺めるのは好きですが、いつもお月見のタイミングを逃していました。

今年は9月10日が「十五夜」ということを知ったので、はじめてお月見なるものをやってみようと思いました。

ちょうどすすきが生えてくる季節。

外に生えているすすきを三本ほど拝借して、お団子を用意しました。

本当は15個、並べ方にも意味があるそうなのですが、そんなに食べられないので、少しだけ並べました。この日、満月はきれいに出てくれました。

すこし調べてみると、すすきは、稲穂のかわりに神様を呼ぶ依り代で、魔除けでもあるそうです。

お月見団子は、満月のかたちをしているのと、秋の収穫に対する感謝や、翌年の季節の豊作の祈りが込められているそうです。

また、お供えしたお団子をいただくことで、健康や幸福を得られるとされてきたそう。

お供えしたあと、お月さまと同じかたちのお団子をいただきながら、自然と繋がっている日本の文化は素敵だな…と思いました。

そして十五夜明けた翌日。

空がきもちよく晴れ渡り、久しぶりに富士山がきれいに見えました。

富士山の山肌がよく見えて、富士山の岩肌を思い出します。

「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」なんていう言葉がありますが、移住してくるより前に、私も一度だけ富士山に登ったことがありました。

(一緒に行った家族が高山病になったと同時に、私も全身筋肉痛になって疲労困憊だったので、本八合目で下山することに。山頂までは行っていませんが…)

そのときの、赤い砂利。

岩のごつごつに触れた、てのひらの感覚。

澄んでいて、薄い空気。

険しい土地にたまに生えている植物と、そこに寄っているちいさな蜂。

3,000mをこえる、本八合目から見た、夜明けのピンク色の太陽。

帰りに延々と続く、ジグザグの急傾斜のはてしなさ。

白い馬に助けられたこと…

いっぺんにいろいろなことが思い出されるくらい、この日は山肌が良く見えて、富士山の存在をいつもよりいっそう近くに感じました。

私は、運動が苦手なのと、富士山を登るのはちょっと畏れ多いなぁと感じたので、二度目はおそらくないかな、と思います(麓を散歩することはあるかもしれませんが)。

これからは、きれいな水などの恵みに感謝しつつ、神山としての富士山を麓から感謝して眺めるのが私にとってはいいかなと思っています。

こんな雪のない富士山を拝めるのも、いつまででしょうか。

畏れ多い山だと思っていても、秋晴れの富士山は、惚れ惚れするほど美しいです。

9月のハーブ染め

春先に種をたくさん蒔いて育ってきた、マリーゴールド。

「マリーゴールド・タンジェリン・ジェム」という固定種のマリーゴールドでした。

これは、八ヶ岳にある〈日野春ハーブガーデン〉さんで、種として購入していたもの。

ホームセンターでよく見かけるマリーゴールドに比べると、お花はとても小さいです。

この品種は葉っぱもお花も触るだけで、柑橘系のさわやかないい香りがします。

この葉っぱも花びらも、食用としてお皿の飾りや、卵料理、サラダとしても食べられるそうで、〈エディブルフラワー〉と呼ばれています。

テントウムシやチョウ、ハナアブやハチなどの益虫を集める植物ともいわれているので、きっと庭の他のハーブたちにも、健やかな影響を与えているのではと思います。

わたしはマリーゴールドの色を染めてみたかったので、小さな花を摘んではその都度乾燥させて、少しずつためていました。

今回は、そろそろ秋になってくるので、靴下を履く頻度が高くなるかなと思い、白い靴下を染めてみることにしました。

染める下準備をしたあと、お花たちをじっくりと煮だしていきました。

ちいさなお花たちから、すぐに黄色の色があらわれてきました。

しずかに染めていったら、だんだん黄色に。

染めあがると、絵にかいたお月さまのような、あるいはほくほくの焼き芋みたいなきれいな秋の色になりました。

いろんな収穫時期を迎えていく実りの秋。

冬になっていくまでの貴重な時間、今しか感じられない景色や豊かさを味わっていけたらいいな、と思います。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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