5月の富士吉田
5月に入り、たくさんの植物たちが芽吹いてきました。
すずらんは、小さく鈴のようなコロンとしたお花を無数につけています。その真っ白さはとても無垢で、はっとするほど。近くを通るとどこからともなく品のいい香りが届いて、お花は小さくても、あたり一面すずらんの気配で満ちていることに驚きます。

そのあと、少しタイミングが遅れて、シランが咲きました。

すずらんの白さのそばに、発色のよい紫色が冴えて目に入ってきます。かわいいブラウスのフリルのようなところが可愛くて好きです。日本のお花らしい、奥ゆかしさを感じます。
そして、満を持して大輪を咲かせるのは、芍薬です。
まんまるのつぼみがかたく閉じているかと思えば、晴れた日には大きく開花していました。
ピンクとクリーム色の色合いがなんともかわいらしくて、大輪が惜しげもなく咲くさまに惚れ惚れします。芍薬も、私の大好きなお花です。

越冬したハーブたち、セージやオレガノも元気です。みんなフレッシュで、朝1枚ずつ葉っぱを摘んでお白湯にいれたりしています。


苗を買ってきて植えた子たちも、皆元気いっぱいに育っています。

毎年育てている藍は、今年も種まきして、少しずつ育ってきました。そろそろ畑に植えなくては……

ちなみに、これを書いている今は、ちょうど二十四節季では「小満」という時期でした。「草木が茂って天地に満ち始める」という意味で、草木が勢いよく成長し、生命力が空間を埋め尽くしていく様子を表すそうです。まさに今の季節にぴったり。
植物はどんどん芽吹いて、生命力で世界が満ちていく。
わたしも、植物と一緒にやりたいことがどんどん増えていって、追いつかないほど。わたしのなかの生命力も、植物たちにつられて、めきめきと勢いをつけていくようです。ちょっとめまぐるしいくらいですが、きっと梅雨になれば、富士北麓はひんやりと落ち着くので、一旦クールダウンするだろうと思います。
今は外にも内にも、自由な生命力を感じられて、嬉しいです。

よもぎも、たくさん生えてきてくれました。あるとき畑に自然に姿を現してくれてから、そのあたりの土耕したりはせず、なるべくそっとしておくようにしています。
今月の基礎講座ではこのよもぎを染めますが、月の後半に講座があるのでその様子を記事にするのはまた今度。

河口湖では、ちょうどネモフィラが咲き溢れていました。あちこちで綺麗な景色がたくさん見られて、幸せな5月です。
そんな5月は、私にとってはじめての体験がありました。それは、北富士演習場での山菜採りです。
富士吉田、忍野、山中湖にまたがる北富士演習場は、住民の入会地でもあり自衛隊の訓練場所でもあります。毎年火入れのあと、山菜採りに行く方が多いそうです。
山菜採りに行けることは知ってはいたものの、演習場が開放されている日は限られているし、毎年気づけば山菜の時期はあっというまに過ぎてしまう。それに演習場のどこからどう入ればいいのかもわからず、入ったら迷子にもなりそうだと思って、なんとなくあと一歩の勇気が出せず何年も機会を逃していました。
そんな中、今年は、知人の山菜採りに参加させてもらえる機会に恵まれて、はじめて山麓での山菜採りができました。
5月のはじめに立ち入った演習場は、火入れ直後で、黒くすすっぽい大地に、ちょこちょことだけ生え始めの山菜が。そのなかで、風になびく枯れたすすきが、静かに揺れていました。

煤が服にすれていたようで、あとから気づくと服が黒っぽくなっていました。
まだ顔を出したばかりのわらびもたくさん。山菜に詳しい方に山菜のことを教わりながら、早めに育っていたわらびと、ヤブカンゾウを皆で摘んでいきました。

ときたま見上げると、普段よりも近くて、地続きの圧巻の富士山がそびえていました。
ほかにはなにもなく、風がふきわたる荒涼とした大地を見ていると、富士山は火山なんだなとあらためて感じさせられます。
演習場は土がボコボコしていたり、坂をあがったりくだったり、とてもワイルドな地形。カナヘビがいたり、鹿の足跡があったり。広大な土地です。
山菜採りは最初は全然見つけられないのに、ふと、わらびが目に飛び込んできて、そこからはどんどん見つけられるようになるのが楽しくて夢中になります。でも気づけば自分がどこにいるのかわからなくなる。私は方向音痴で、演習場は電波も悪いので、一人で行くのはまだやめておこうかと思っていますが、こうして過ごした富士北麓の山菜採りは、とてもうれしく楽しい時間でした。
摘んだわらびは毒があるとのことでしたが、下処理の仕方を教えてもらい、帰宅してから重曹で下処理をしたところ、美味しく食べられました。和にも洋にも合う春の味でした。

また、はじめてのわらび染めをしてみました。染液の作り方をいくつか試してみたりして、とてもいい経験になりました。わらび染めについては後半でも触れようと思います。

そして5月中旬には別のイベントでまた演習場へ訪れることになりました。それは、日本茜の年間プロジェクトのためでした。

富士吉田の農家・佐藤農園さんは、日本茜の根を染めに使うために、長年にわたってその栽培方法を研究されています。今回、その取り組みの一部を、私たちも皆で体験させていただける機会をいただきました。
初回は、演習場のなかに自生している日本茜の苗を移植するために、採取しにいきました。

とはいえ、日本茜はどこにでもいるわけではなく、広い広い演習場のなかでも、植生にはバリエーションがあるようで、農家さんの目利きにより発見された場所で採取していきました。

苗を採取してポットに移し替えて、1か月はこのまま育てていきます。農家さんに預けてもいいし、自分で1か月育ててもいいとのことだったので、2株だけ持ち帰ってきました。元気に育ってくれることを祈ります。

そのあとには、せっかくなのでわらび採りもさせていただきました。前回来たときよりもかなり育っていて、葉っぱが開ききっているものもいました。

そして、最後は演習場のなかを進んで、農家さんおすすめの見晴らしのよいところまで行き、おにぎりを食べながらのピクニック。右に富士山、左に山中湖が見える、とても贅沢なロケーションでした。


ちなみに演習場の中では位置感覚も掴めず、自分だけではここまで来れないだろうなと思いつつ、農家さんの先導で奥へと車で進んでいくのは、なんだか冒険感あふれる体験でした。おにぎりなども用意してくださっていて、そのお気遣いに改めて感謝です。
こうしてわらびを収穫できたので、イベント後に私はわらび染めもしました。

わらびの色がじっくりと布にしみこんでいきます。染めていると、わらびのみどりがかった香りが立ちのぼって、わらびの気配でいっぱいのなかでその色をじっと見つめる時間になります。

染め終わって水でゆすいでいるとき、布は水の中で染めたてのみずみずしい色を見せてくれます。自分で染めをしているときにいつも、きれいだなぁと感じるタイミングです。わらびの染めたての色がきらきらしていました。

そして、布が乾いて色の躍動感がおさまってくると、色も少し落ち着いていきます。リネンハンカチは、すこしライムグリーンのような色に染まりました。
この色を見ると、今年のわらびの記憶も一緒に感じられます。しなやかなわらびの茎や手ざわり、わらびを見つけて喜び合ったあのたのしい時間も一緒に、色に染まってくれました。
みどりの芽吹きがいっぱいの季節、こうした機会に恵まれて、新鮮さやたのしさ、人のあたたかさに触れたり、瑞々しいいのちの色に出会えた、そんなわたしの5月でした。