藤崎 仁美

2026.02.28

草木とともにあるくらし 47

2月のくらし

2月のはじめ、富士吉田市内で引っ越しをしました。

近場なので生活圏内はほとんど変わらないのですが、住む場所が変わると人の意識は変わるものだなと感じます。

前の家の周りも木々や植物、鳥などがいて賑やかでしたが、新居でも、周りには色々な鳥たちがいたり、猫に出会ったり。
また違ったかたちで自然のいのちを感じられるので、嬉しく思っています。

それにしても引っ越しとはエネルギーが要るものだなとつくづく驚きます。
知らずのうちに増えてしまった不要なもの、もう合わなくなってしまった過去のものとはお別れをして、これからをともにつくっていくものだけを残していく。
エネルギーは要るけれど、時々こうして見直して刷新していくのは大事だなと思いました。

幸い、引っ越しの移行期間中は雨も雪も降ることなくずっと天気が良くて、助かりました。

個人的に引っ越しの上で一番心配していたのが、家の織り機でした。

ひとつは中古で購入して、もうひとつは八王子で縁あっていただいた高機。
どちらも着物の織物を織っていたような古い織り機で、経糸を張る間丁部分が長めになっていて大きめです。

世の中には、折りたためる織機があったり、とてもコンパクトなものもあるのですが、私のは昔ながらの木が組まれている機織り機。

新居はこれまでのように窓からそのまま入れるのは難しく、ちゃんと運び入れられるかが心配でした。

でもたまたま、織り機の解体や修理なども扱われている町田の大工さんの存在を知り、ご連絡してみたところ来ていただけることに。そして前のお家で一度解体していただきました。

がっちりと組んであるような織機も、大工さんの手にかかるとスムーズにどんどん解体されていきました。

その後、運搬もしていただき、あたらしい部屋で組み直してもらい、無事に移動が完了しました。

プロってすごいな、とさまざまな技術職の方を見るといつも尊敬の念を抱きます。
素材のことをわかっている、ものができる仕組みを理解している、作業がどうすればスムーズに片付くのかわかっているようにみえる。

いつ誰が組み立てたのかわからないものも、迷うことなく綺麗にはずしていって、綺麗にまた組み立てられるのも凄いなぁと。
プロでなくても、器用な人は自分でやってみるかもしれないけれど、私だったらバラバラにして困り果ててしまったり、力加減がわからずに壊れて、途方に暮れてしまったりしていたでしょう。

織り機は2台もあるし、作業は1日かかるかなぁと思っていたけれど、お昼休憩に入る必要もないほどスムーズに終わりました。
わざわざ富士吉田まで来ていただいて本当に感謝です。

今年の私の抱負には、草木染めの活動はもちろんですが、織りをすることと、着物を着ることも挙げているので、こうして新しい環境に織機を設置できて良かったです。

これから、どんなものを織ろうか考えようと思います。

そんなこんなでばたばたと引っ越しを完了したところで、富士北麓にもひさしぶりの雪がふりました。

ここまで待ってくれて本当に助かりました。
雪のなかの引っ越しだったら、さぞかし大変だったことでしょう。

雪はすぐに解けましたが、富士五湖の冬らしさを感じさせてくれる景色になりました。降りたての山の雪化粧を見るのが好きです。

今回の雪はわりとすぐに解け、気温もほどほどの日が続きました。

思い起こせば、2018年の節分のあたりには、最低気温がマイナス16度くらいの日が3日くらいあり、本当に家の中の色々なものも凍るほど、凄まじく寒くて身体もおかしくなったりしていたものでした。
そのころと比べると、今年の富士吉田の冬はずいぶんあたたかみのある冬なんだなと思います。

春になるまでのあと少しの時間、寒い時期の景色もめいっぱい味わいたいです。

2月の草木染め
引っ越しのバタバタがある程度落ち着いてからは、日本茜の染めをはじめました。

富士吉田で参加している「日本茜を育てる会」の一環で、来月3月10日から14日まで、参加作家として、桐生市にあるセレクトショップの『uraraka』さんにて日本茜のプロジェクトのパネル展とともに作品も展示販売させていただけることになりました。

2月はそのために出品させていただく日本茜の色を染めていました。

日本茜がどんな色を見せてくれるのかをお伝えしたい、富士山の水と、植物のいのちの通った色を布にうつし染めてお届けしたい、と思って、大切に染めています。

私にとっての日本茜の色は、根っこの色でありながら、空と近しいような、天の気配のする澄んでいて尊い色。夜明けの空や、マジックアワーの夕空のような、天高くの色のようなものを連想させてくれます。また、染まる色の広がりは奥が深くて、一色では言い表せない色。

たまたま、2月の夕空も日本茜のような色をしていました。

ちなみにこの日の富士山もとてもきれいでした。

富士山が光に透けて黄金色のようになって、みるみるうちに夕陽がしずむとともに、色が2色にわかれて、だんだんと色が変わっていく。

これは富士山が見えるところやほかの山では見られるのか、それとも、富士北麓だから見られるものなのでしょうか。富士吉田に引っ越してきてから、とくに好きな景色です。

富士山の色は、その日その日で色々な色に変化します。自然の色の神秘を、富士山にも教えてもらう日々です。

日本茜染めは、私のなかでは、時間をかけ、感覚もはたらかせながら、何度も染液をつくったり、何度も染め重ねたりして尊い色をあつめて染めていくので、根気を要するものでもあります。

山に今でも自生している植物ですが、染めるとなると量も必要だし、市販のものは希少で、あったとしてもとても高価なので、楽しみと同時に引き締まるようなきりりとした気持ちにもなります。

とくに2月は、もっとも水のつめたい時期。そんな中で染まる色はいっそう冴えてくるように感じます。

春がひとたびやってくると、色々な植物の芽吹きや鳥のさえずりが一斉にやってくる。
そうすると外はいのちの気配でいっぱいになって、あっちの芽が出た、こっちの花が咲いたと、それをひとつひとつ見つけて喜んでいるだけでも大忙しになります。

今のこのたっぷりとゆたかな、なにもないような2月の静けさを心のゆとりとして、植物の色にささげて染めていたいなと思った、そんな2月でした。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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