藤崎 仁美

2026.03.31

草木とともにあるくらし 48

3月のくらし

3月のはじめ、ひなまつりの日に、富士吉田では雪がしんしんと降りました。

市街では降ったそばから溶けていくような春の雪だったけれど、用事があり市内の杓子山のほうへ出かけると、しっかりと雪は降り積もっていました。

音もなく、軽い雪がただただ積もっていくようすは、息をのむような景色。
真っ白で、澄み切った銀世界でした。

そんな雪も、翌日には太陽の光ですっかりと溶けていきました。もうだんだんと寒さがゆるんできているのを感じます。

この頃は少し散歩をすると、まだ枯れた大地から少しずつ、地中でひっそりしていた植物たちが息を吹き返していることに気づきます。

毎年夏になると、草たちの勢いにむしろ圧倒されてしまうのだけれど、春先の芽吹いたばかり、咲いたばかりの植物たちを見つけるのは、何にも代えがたいような小さなよろこびがあります。

なにかの文章で、花は咲こうとして咲くというより、つぼみでいることをやめて咲くのだ、というような言葉を読んだことがあって、誰の、何の言葉かも分からないのですが、なんだか好きでずっと心に残っています。

太陽とともにゆるみ、ふんわりとひらいて咲く花を見ると、見ているこちらもふわっと顔がゆるんでつい微笑んでしまいます。

花が、見ている人をも自然に嬉しい気持ちにさせてくれるのは、それに力みがなく、ただ自然にゆるみひらいている姿だからなのかもしれません。

そんなわたしの3月は、先月に引き続き、日本茜の根っこから色を染める制作をしていました。
富士吉田の大地で育てられた富士の日本茜の根っこたち。

根と向き合うというのは、うまく言葉にできないけれど、特別なもののように感じます。

私にとってはどの植物も等しく大切なのだけれど、とりわけ根というものの、深さ。根源、ルーツ。こちらの胆力が問われるような、逃げられないような、圧倒的な土台。

ずっと土のなかで水をもとめ、下へ奥へと深みへ伸びていって、すべてを支える見えないちから。
一番大事なところで、一番見えないところ。

そんな根に支えられるおかげで、地上部は空へ、未知なる世界へ、と茎葉をのばしていける。

そんな象徴ともいえる根っこを染めるときには、自ずと気持ちが入ります。花を見たり枝を染めるときの高揚感とも違った感覚で、意識は醒めているのだけどすごく落ち着いているような、そのうえでその時間を味わい楽しむような心持ちです。

卑弥呼の生きた時代にはすでに染められていた、日本茜。当時の染めたひとたちはどんな気持ちでこの茜と向き合っていたのでしょう。魏志倭人伝のなかに、魏の国へ献上された「茜で染められた絹」という記述があるのは、この茜の色がかつての倭国で大切なもの、象徴的なものだったからなのではという気持ちになります。藍の絹と、茜の絹。その献上された絹たちはどのような色をしていて、そしてそれはどのように海を渡り、どう受け取られたのでしょう。

大事なお役目をもって海を渡った日本茜の色に、想いを馳せてみると、遠い遠い大昔が今とひとつながりであるのを感じ始めたりします。

染色の世界では、日本茜は赤く染めることを目指す人が多い印象ですが、赤を強く染めるには量も工夫も必要で、貴重な茜を少しずつ使っている私にはまだこれからの課題でもあります。
ただ、私はこの明るいオレンジ色も晴れやかで好きなので、今回はオレンジ色〜ピンクの色のひろがりで染めていきました。

今回、プロジェクトの一環で、桐生でポップアップの展示をさせていただけることになり、どんなものにしようか考えていました。

私は、日本茜の根っこからあらわれる、明るく澄んだ色を皆さんによく見ていただけるように、ある程度大きい布を染めることにしました。かつ、わたしは絹と麻が好きなので、その両方を染めていきました。

大きく染めたシルクは、今回は丹後地方のシルク生地の大判のものを染めました。

丹後地方は、丹後ちりめんが有名なシルク織物の産地。何年か前から、丹後のシルクを購入させていただくことがあります。自分自身の血筋のなかにも丹後地方の系譜があるので、なんとなく土地へのご縁を感じているところもあったりなかったり。これからも日本でシルク生地を作り続けてほしいと思い、購入しています。

纏ってもいいし、飾ってもいいし、つつんでもいい。上も下も、左右もなく使える、そんな融通無碍なテキスタイルになるように、手で線を描いて絞りをつくり、同じ日本茜から複数の色で染めました。

今回は全体を通して、線を描き、それをもとに絞りをつくり、ひとつの布のなかに、白と茜の色だったり、茜からの2色だったり、縁取りのネイビーと茜の色など、1色単色ではなく、ほかの色との対比があるようにしました。

フリーハンドで線を描いて染めていくときには、できるだけ愉快な気持ちでのびやかに、かたまっていなくて、もしかして動いているんじゃないかな?という線を描いて染めようと制作しました。

そしてその線で、茜の色を染め分けたり、濃淡を出してみたり。上の画像は、リネンのストールなので、巻き方次第で、布の表情も変わり使う楽しみが広がるかと思います。

今回は、試作をしながら茜が見せてくれる色をみているうちに、こうしてみよう、とアイデアが浮かんで、夢中で制作していったので、茜がわたしを純粋な創作へと導いてくれたのだと思っています。それは、とても嬉しく楽しいものでした。

今回は、実用品としてだけでなく、飾るアートとしての草木染めにもしたいと思いました。

茜の色は、部屋のなかに飾っていると、なんだか晴れやかで、安心感も与えてくれます。

茜の色とはまだまだ向き合っている途中。これからもっと、茜と共同での制作を楽しみたいなと思っています。

そうして桐生での展示の日を迎えました。

パネル展でもお世話になった会場の『uraraka』さんは、とても素敵なセレクトショップでした。
黄色い壁の色がとても素敵で、取り扱われている品々も、佇まいの良さや生活美のあるものがたくさん。

私は最終日だけ在廊し、当日ワークショップの講師をさせていただきました。

桐生在住の方が参加してくださり、お話させていただけたのもとても嬉しかったです。

桐生という場所の、文化の深みを感じました。

そして、慣れない高速道路の夜遅くの運転が不安だったこともあり、桐生に一泊することに。

絹織物で有名な桐生の古きをいかしている街並みやお店の佇まいに共通する、なにか漂う文化を感じつつ、人の出会いもあり、深い学びもありました。

富士吉田までへの帰路には、せっかくなので近隣の温泉や神社にも訪れつつ、日本には素敵なところがたくさんあるんだなと感じ入りながらの旅となりました。

そして、その翌週には、富士吉田の氷室どよう市で集合し、育てた根っこを乾燥してもらっていた分の受け取りと、染めの体験を行いました。

作品も並べさせてもらいつつ、乾燥された根っこを使っての染め体験。

土や砂がまだたくさんある根は、とても土っぽく、かるく洗うとどんどん土が落ちてきます。いかにも、根っこという感じです。

そんな根の汚れを落とし、染液を作っていくと、このような澄んだ色になりました。

土に埋まった根っこから、こうした澄んだ色があらわれることに毎回驚きます。

これまでともに日本茜の栽培体験に参加してきた皆さんと、それぞれシルクの布を選び、柄をつくり、染めていきました。

栽培としては、この染め体験で一旦2025年度の集まりは終了。またこれから、来年度がはじまっていくそうです。

参加作家としては、5月に八王子の坂本呉服店さんにて、日本茜のポップアップをさせていただくことになっているので、引き続き、日本茜の根っこの色を楽しみながら探求と創作をしていきたいと思います。

今年度の活動、何よりも日本茜を育ててくださっている佐藤農園さん、ご参加のみなさん、とりまとめの装いの庭さん、ともに参加作家としてお世話になった皆さんへあらためて感謝です。

こうした機会のおかげで、貴重な日本茜と戯れるように色を染めることになり、そうしてまた新しい景色が見えてきたような気がします。

そんな兆しのあるわたしの3月でした。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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