藤崎 仁美

2025.04.30

草木とともにあるくらし37


4月の富士吉田

先月は雪が降っていた富士吉田にも、ようやく春が来ました。

甲府や東京のほうと比べると一足遅れて、ゆっくり桜が咲き始めました。

これを書いている今も、桜はまだ散らずにうつくしい花を咲かせ、風になびいています。

富士吉田は、下吉田から上吉田にむかってゆるやかに続いているので、標高の低いところから桜が咲いていって、徐々に上がっていくような印象です。

桜ひとつとっても、花びらの色かたちや大きさに色々な種類があって。八重桜は色が濃くて、華やかで。白っぽい桜は日本の景色によくなじんで、儚げな美しさ。山桜は人知れず静かに咲いているような印象で、控えめだけれど可憐だなぁと感じます。


ちなみに、4月の富士山はまだまだ雪がたっぷり残っています。

真冬のくっきりした姿とはちがって、春の富士山は晴れていてもどこかふんわりした空気につつまれているように見えます。

きっと来月には、雪が少なくなっているのでしょう。夏になると雪化粧の富士山はしばらく見られなくなるので、今のうちにたくさん眺めておこうと思いました。

富士北麓は春でも朝晩はまだ冷え込むこともありますが、日中は気温も上がってきて、芽を出す植物たちが増えてきました。


たとえば、ちいさなすみれが咲いていたり。


今年はじめて咲いたばかりのスイセンのお花も見つけました。


前に食べたふきのとうのフキも、葉っぱを出しはじめています。青々としていてまだ小さくて可愛らしいです。ここから植物の活動がどんどん活発になっていく時期です。


そんな4月、軽い雨があがったら、大きな虹があらわれました。

途切れのないきれいなアーチを見られて、なんだかとても嬉しくなりました。

ふと知ったのですが、四季のうつろいをあらわす〈二十四節季・七十二候〉のなかで、4月15日から19日頃は、「虹始見」(にじはじめてあらわる)とされています。

冬の乾燥した空気がだんだんと水分をもってきて、この頃から虹があらわれやすくなるそう。

昔から、日本人は自然と調和した暮らしをしてきたからこそ、こうした季節をあらわす言葉や文化が残っているのだろうなと感じました。

これからはこうした暦も合わせて、季節をみていきたいなと思いました。

4月の草木染め


毎年、お世話になっている河口湖の農家さんからいただく、富士の麓の桃の枝たち。

桃を育てるために剪定された枝には、花を咲かせようとするつぼみがたっぷり。

つぼみには触るとふわふわした産毛があって、まるで鹿の角のよう。

枝はこんなにも赤く色づき、花を咲かせようとする力強さをすでに感じます。

4月は、この桃の枝の色を染めさせていただきました。

ひとつは、出張ワークショップ。


4月19日に開催された、山梨県中央市のリネンのアパレルブランド〈wafu〉さんの実店舗イベント内にて、桃染めワークショップを開催させていただきました。

wafuさんは、自社でデザイン、縫製、販売までおこなっているリネン服のファクトリーブランド。社長さんのYouTube動画も人気で、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

私自身、こちらの服作りの学校(パターンメイキングスクール)に通っていたことがあり、これまでもお世話になってきましたが、今回は草木染めの活動として参加させていただきました。

染めるものはリネンハンカチ。まずはwafuさんのはぎれを裁断してハンカチを縫いました。そして染めるための下処理をし、桃の染液も事前に準備して、当日を迎えました。



当日はとても良いお天気。富士吉田と比べて中央市は気温が高く、初夏のような季候。新作受注会やカフェ営業などされている傍らで、風のよく通る室外にて、約10名の方が桃染めを体験してくださいました。

今回は、無地で染めても、柄を輪ゴムで作っても良いということにしたのですが、みなさん柄をつくって染めてくださいました。



正解や間違いはなく、お手本を目指してつくるものではないので、参加者さんのお好きなように自由に作っていただきました。絞った柄がどう染まるのか、布を広げてみないと予測がつかない面白さや、その時にしか生まれない作品との出会いも楽しいものです。



染め終わりのタイミングもご自身で決めていただいたので、柄も色味もそれぞれ違っていて、どのハンカチも唯一無二な作品に仕上がりました。なにより皆さんの笑顔がとても素敵でした。



暑いなかご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。県外からいらした方が多かったので、山梨の春の色をおみやげとして持ち帰っていただけて嬉しかったです。

今回は、ワークショップの機会をいただいたり、当日までスタッフの方にお世話になったりと、ありがたい限りの1日でした。心から感謝しています。

そして4月の桃染めのふたつめは、第3期目の基礎講座の初回でした。

この春、参加者を募集したところ、大人8名とお子様2名、合わせて10名の方にお申込みをいただき、こちらのメンバーにて講座スタートとなりました。

もともと大人8名を目標人数と想定していたので、今回は満員御礼ということで一旦募集は締め切らせていただきました。次回は9月から開催される第4期の募集になります。

ちょうど4月は、山梨の桃の花が咲く時期。

山をこえた先の笛吹市などでは、たくさんの桃畑が広がり、一面がピンク色に染まってとても綺麗です。

ちなみに桃は、日本や中国では、魔除けや延命長寿の象徴とされてきました。

ひなまつりでは桃の花を飾りますが、それもきっと、大切な女の子が守られるようにと魔除けの意味合いで飾られてきたのでしょう。

『古事記』には、魔除けとして桃が投げられる場面もあるし、「桃源郷」という言葉からも、天国のような理想郷を思わせるイメージがあります。

そんな桃の花のつぼみがたっぷりついた枝から、桃の枝の生命力や春のエネルギーを一緒に感じながら、色に染めていただけたらと思い開催しました。

連続4回の基礎講座では、毎月、テーマごとに、枝、春の草、実、根を染めていただくように構成しています。そして初回は、まず草木染めについての基本的なお話をしてから、春の桃の色で、シルクの小風呂敷をじっくりと染めていただきました。

時間をかけて丁寧に用意した桃の液は、甘い香りがします。そんな香りも感じていただきながら、シルクの布は少しずつ優しく色づいていきました。


今回はお子さんと参加してくださった方もいらっしゃいました。お子さんにはコットンのハンカチをご用意し、好きなように輪ゴムで柄をつくって染めてもらいました。シルクとコットンでは色の出方が少し異なります。親子で色を見比べながら、桃の色を染めていただけたのがとても嬉しかったです。

なお、基礎講座では、大人の皆さんには、まず”色そのものを味わっていただく”ことを大切にしているため、絞り染めは行わず、布全体を染めていくかたちになります。そのなかで、どこまで染めるか、グラデーションにするかなどはお好きに選んでいただいています。

部分的に濃くしていただいたり、全体を重ねて染めてくださったり。皆さんそれぞれに桃の色を染めていただきました。


みなさんそれぞれに素敵に染め上げてくださいました。

春らしい、頬がぽっと染まるようなあたたかみのある色になったように思います。

染めあがりの作品をお互いに見せ合う、皆さんの笑顔が素敵でした。喜んでいただけていたら嬉しいです。

会場となっている明見湖はだんだん景色が春らしくなってきました。初夏には蓮の花が咲くので、その景色が今から楽しみです。


講座のために毎月こちらに足を運んでいただく中で、景色の移り変わりも楽しんでいただけたらいいなと思っています。

4月はこうして、たくさんの嬉しい出会いに恵まれたひと月になりました。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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