7月になりました。
毎年この時期になると、庭や畑ではいろいろなハーブたちが勢い良く育ち始めます。
外では、たくさんヤマユリが咲き始めました。
とても大きくて、真っ白さとお花の黄色と花粉の色が明るくて目を引きます。けれど、なによりも存在感があるのは、ヤマユリの香りです。
お家に飾ると家の隅々までユリの香りが漂っていくほど、その香りの強さに驚きます。バニラのような、芳醇な香り。
人によっても好みが分かれそうですが、この香りにはリラックス効果や抗うつ、安眠効果があるのだそうです。また仏教やキリスト教、海外のさまざまな宗教でもユリは特別なお花とされています。
夜、外の暗闇の中では、ユリの花たちが白く浮かび上がっていて、強く甘いかぐわしい香りがただよっています。音は静かなのだけれど、ユリの生きる気配が満ち溢れていて神秘的な存在感があります。この強い香りで虫たちに、おいでと誘っているのだそうです。
調べてみたら、ヤマユリはユリの中の王様とも言われているそう。
時にその存在感に圧倒されつつ、そっと観察しています。
畑では、草に埋もれながらもバーベナがなんとか育っていました。レモンのような香りがとても好きです。
今年の春に植えてそのままだったステビアも、草のなかでちゃんと育っていました。カロリーも糖質もゼロなのに、砂糖の何倍も甘い葉をもつステビア。この葉っぱを、甘みをつけたい飲み物に少し入れて楽しんでみようと思っています。
庭では、「ハッピーハーブ」ともいわれるセントジョーンズワートも育っています。黄色いお花ですが、アルコールでチンキをつくると血のように赤くなるのが不思議なハーブです。
7月に入り少し体調を崩して風邪をひいたので、心身のメンテナンスも兼ねて、時々ハーブを摘んでお茶にして飲んでいました。
今回の風邪は喉にくるものだったので、喉に潤いを与えてくれる、庭のブラックマロウのお花を摘んで、お湯を注いでみました。そこにカモミールなども加えてアイスハーブティーに。ブラックマロウはあまり味の主張がないのですが、色がグレーがかった紫のような色になりました。
最近、どんなハーブティーでもアイスにして飲むとまた違った美味しさがあるということを知りました。
内臓は冷やさないほうがいいとは思いつつ、ホットで飲む時とはまた違う香りや美味しさ、飲みやすさがあって、夏の間は心地よく感じます。
また別の日には、違うハーブを少しずつ摘んでお茶にしました。セージやオレガノ、セントジョーンズワートを選んで熱湯を注ぎました。
ハーブは、単体で飲むよりも、ほかのハーブ同士を一緒に合わせることで掛け算のように相乗効果があるそうです。単体でも美味しいけれど、ときに合わせることで飲みやすくなるんだなぁと最近感じています。
このハーブティーは、可愛い色と、さわやかな優しい味になってくれました。
セントジョーンズワートが少しだけ入っていたからか、淡いピンク色に。味も色も好みだったので、またこの組み合わせで飲んでみようと思います。
そんな植物たちも元気な7月、山開きがあり、夜の富士山には山小屋の明かりが星座のように灯ります。そのことにはじめて気がついた時、「ああ、夏が来たんだな」と感じました。
日中の富士山も、赤っぽい土の山肌が見えて、夏らしい姿を見せてくれています。いよいよ、夏本番です。
そんな7月はじめには、少し珍しい旅をしました。
地元の名古屋を経由して、愛知県の田原市から海をわたり、伊勢神宮へお参りする旅でした。
毎年、伊勢神宮には、神様の衣服になる絹・麻の織物が奉納されていて、それは神御衣(かむみそ)と呼ばれています。その絹の織物のためには、愛知県三河でつくられた繭が、愛知県田原市の神御衣御料所というところで糸繰りがされて赤引きの糸と呼ばれる糸になり、その絹糸は伊良湖岬から舟で鳥羽港までわたり、その後松阪市で織りあげられ、伊勢神宮に奉納されています。 この絹糸は、神様の冬の衣服となるそうです。
https://www.isewanferry.co.jp/publics/index/214
その糸を船で奉献する日がかならず7月3日と4日と決められていて、ちょうどその日が私の誕生日だったこともあり、以前から気になっていました。誕生日にあるご神事ということ、そして「糸」に関するご神事であること。どちらにもご縁を感じていました。
今回、その奉献団に同行するお糸舟ツアーを見つけ、参加をさせていただきました。これは今回で125回目を迎える歴史ある行事で、125名を集めたいと皆さん頑張られていたようですが、当日はそれを上回る128名もの参加者が集まり、皆さん喜ばれていました。
こちらは、ツアーの前に立ち寄ってきた、愛知県田原市の神御衣御料所。こちらで1週間前に絹糸をとる儀式をされるそうです。今年の三河の繭は、5Aという高品質なランクの繭ができたと伺いました。
https://www.taharakankou.gr.jp/spot/spot.php?search_category1=&spot_id=565
あらためて、日本の神道では、お蚕さんを育て糸にし、布を織って、毎年清められた衣を献上する。その一連の流れが神事として今も続いているんだなと感じました。
お糸舟のツアーは、最初に修祓式が行われた後、奉納される糸に続いて皆でフェリーに乗り、鳥羽港を目指します。
山梨にいると海を見る機会が少ないので、フェリーもとっても久しぶりの体験。今から奉納される絹糸と同じ船で伊勢を目指すのは、なんだかとてもワクワクしました。
鳥羽港についてからは、夕食まで自由行動だったので、禊場の二見浦へお参りしてから、外宮にお参りに。
とくに私が好きだったのは、二見浦の二見興玉神石。現在は見えないですが、海中に霊石があり、この夫婦岩はその霊石に参拝する鳥居のようになっているそうです。
また、この日は見えませんでしたが、このしめ縄の中心に富士山が位置しているそうで、夏至の日には、しめ縄の間に富士山と太陽が一直線に並び、富士山がシルエットで見られるそうです。
この日は伊勢から海越しに富士山を見ているというのも、なんだか感慨深く感じるとともに、島国の日本はいろんな場所で祈られ、守られてきたんだろうなと感じました。
そのあとは外宮へお参りしたり、おかげ横丁を散策したり。
おかげ横丁では、七夕前ということで短冊がたくさん飾られていました。
近くの松阪もめんのお店にも立ち寄って、小物を購入したりしました。伊勢木綿とは、江戸時代から続く木綿の織物。強く撚りをかけない、弱撚の単糸を織っている、しなやかで柔らかな織物で、今では臼井織布さんという織元さんのみがつくられているそうです。
そしてツアーの宿泊先はおかげ横丁からすぐ近くにある神宮会館という、伊勢神宮の崇敬会が運営する、お伊勢参りのための宿泊施設でした。
そして、たまたま通過したロビーでは、神御衣についての写真や実際の糸の展示がありました。
絹の和妙(にぎたえ)は女性が、麻の荒妙(あらたえ)は男性が織ることになっているのだそう。
そして献上される絹糸、麻糸、織られた五色の織物など、実際に拝見することができました。
皇室ではお蚕さんが育てられていると聞きますが、こうして絵なども残っているのですね。
日本の祈りの核となるところに「衣」というものがあるということに、なんだか感じ入るものがあります。そして、神事が続く限り、その技術もまた神社の中で守られ、次の世代へと受け継がれていく。そうして文化は生き続けているのだと思います。
普段、日常生活で触れることのない世界ですが、こうして粛々と日本の祈りの文化が途絶えずに続いていることって凄いことだなと思いました。
私自身は愛知県出身ですが、田原市とのご縁は個人的にはなかったので、参加していいのか少し不安もありました。でも実際に参加し、人数が増えて文化がまた続いていくことに微力ながら貢献できて、良かったです。参加されている皆さんからも活気を感じて嬉しくなったし、清らかな糸と一緒に、日本や世界の平安をお祈りできたこともとても光栄でした。
幣帛(へいはく)として、こういうかたちで、奉納されるのだそうです。
宿泊していた塔のロビーの一画にある展示スペースで、お風呂上がりにたまたま通りかかって立ち寄ったのですが、一番興味のある「衣」の展示だったので、思いがけない出会いに驚きました。
いつもこちらの展示があるのか、それともこの時期だけ特別に神御衣の展示をされているのかは分かりませんが、たまたま見ることができて良かったです。
翌日は、皆で神宮会館から歩いて内宮へ参拝し、お糸を献上します。正式な参拝なのでスーツなど正装での参加ということもあり、暑さの中で大変ではありましたが、それ以上に清々しい気持ちでした。
お神楽を拝見したり、抽選会などもあり、最後にはてこね寿司や伊勢うどんの昼食をいただいて、ツアーは無事に終了となりました。
2日前くらいには嵐のような天候でしたが、この2日間は最高のお天気に恵まれて、心に残る糸の旅となりました。
そして、富士吉田に帰ってきた翌日には、日本茜を育てるプロジェクトの活動日でした。
佐藤農園さんのご指導のもと、北富士演習場で採取した苗の一部を各自自宅に持ち帰って1か月育てて、7月に佐藤さんの畑へ定植しました。
大きい根になってくれますように。皆で丁寧にマルチに植えていきました。
ほかにも、自生している日本茜の小さい根を見せてもらったり、作業の終わりには若くて小さいきゅうりをおやつにいただいたり。
来月は、日本茜のまわりに生えてくるであろう草取りをしに行きます。
こうして回を重ねるごとに、日本茜と仲良くなっていけそうな気がします。
日本茜の歴史は古く、今から約1800年前、卑弥呼が魏の皇帝に献上した品の中に、茜で染められた絹織物が含まれていたとされています。
絹糸や日本茜など、古代の日本人も関わっていたであろうものに、こうして今も触れることができると思うと、かろうじて今もその文化が残っているのはすごいことだなと思います。
時空を超えて交流しているような、人間の営みを大きな歴史のスパンで感じられる、そんなスケールの大きさを感じさせてもらっています。
7月の草木染め
4月から開催してきたいのちの草木染め 基礎講座は、7月で最終回となる4回目を迎えました。4回目は根っこを染める会で、西洋茜を皆さんに染めていただきました。
日本茜と茜という種類は同じですが、西洋茜はヨーロッパ原産のもので、日本茜とも染まる色の強さなどに違いがあります。
今回は、西洋茜の乾燥根で、コットンのマフラーを染めていきました。
根っこの香り、煮出していったときの色の強さ、染まっていくときの感覚など、皆さんそれぞれに感じていただけたのではないかと思います。
明見湖では少しずつ、蓮の花が咲いてきて、葉っぱもものすごく増えました。
ヨーロッパ原産の西洋茜の根っこ。このまま香りを嗅ぐと、乾いた土や砂漠のような香りがします。西洋茜は、日本茜に比べて流通されていて入手しやすいので、講座ではこちらを取り入れています。
講座の最初は小風呂敷から始まって、だんだん慣れてきたころに、今回のような少し長めな布を染めていただきました。
根っこの力強さや、地上からは見えないけれど確実に支えとなっている存在、そして今につながるルーツの力強さも、色や香りから一緒に感じていただけたのではないかと思います。
基礎講座では、絞りなどの道具は使わず(デザインに気持ちと頭がいっぱいになりやすいので)まずは植物の「色」を楽しむ時間にしていますが、回を重ねてきたこともあり、部分的に結んでみるのは自由にして、お好きなタイミングまで染めていただきました。
植物の色を見ていると、色の違いや植物の違い、微細な変化にも気づきやすくなっていく。それぞれ皆さんが感じることもきっと違っていて、人数分の体験や気づきがあるのだと思います。わたしも一緒に毎回気づきをいただき、分かち合うよろこびを感じています。
こうして今年度前半の、全4回の基礎講座が終了しました。
あっという間でしたが、参加者の皆さんと一緒に植物と出会い、色との時間、そして集いあった方同士の尊い時間を過ごすことができて、とても嬉しく思っています。
こうして、わたしの7月は、日本の文化のルーツに想いを馳せ、古代から現代まで大きな時の流れでつながるものにたくさん触れるひと月となりました。
日常では、ささいなことや目の前のことでいっぱいになることもあるけれど、時にはこうして、古代から今まで続く悠久の時空間を感じるような体験も大切にしようとあらためて感じました。