藤崎 仁美

2025.09.30

草木とともにあるくらし42

9月のくらし

9月になりました。
残暑が厳しいかと思いきや、朝晩はわりと冷える日もあり、涼しさを通り越して肌寒い日も少しずつ増えてきました。秋の虫の声が「リリリ・・」と聞こえたり、たまにふくろうの「ホッホウ」という声も聞こえ始め、秋なんだなと感じます。

こうして秋らしくなってくると、いよいよ畑の藍は花をつけはじめます。
目を凝らさないと開花していることに気づかないほど、可憐で小さな小さな花です。

花が咲く嬉しさと同時に、藍の葉っぱが染められる時期の終わりが近づいてきていることへの焦りも、少しだけ感じます。そんな思いを抱きながらも、花をまぶしくほほえましく眺めています。

畑で育ってきたフェンネルは、よく見ると種をつけていました。
最近、フェンネルシードがブレンドされたハーブティーが美味しいと思っていたところだったので、種が落ちてしまう前に、茎ごと収穫して乾燥させてみました。

少し乾かしてから、時間のある時にプチプチとひとつずつ種を外しました。
早速、フェンネルシードを加えたハーブティーを飲んでみると、とても美味しく、満足でした。

さて、そんな9月の前半は、ちょうど皆既月食が観測される日がありました。
皆既月食はかならず満月に起きるそうで、9月の満月は、ネイティブアメリカンの文化ではコーンムーンと呼ばれているそうです。ちょうど、とうもろこしの収穫の時期にあたり、豊穣のお祝いのタイミングなのだと思います。

普段、暮らしの中で空や星をふと眺めることは好きですが、こうした天体ショーを見るために夜中に起きていることはほとんどありません。それでも、今年はたまたま月食を見ることになりました。

当日は、たまたま寝るのが遅くなってしまって。
そういえば今日は月食だったなと思い出し、寝る前にちらっと窓の外をのぞくと、ちょうど月が見える位置で、不思議な形で欠け始めていました。

月食って肉眼で見るとこんなふうになるんだなぁと驚きつつ少し眺めて眠りにつきました。
すると1時間後、耳元でブーンブーンと蚊が騒ぎ、顔を刺されて飛び起きました。
わざわざ起こされてしまったのも何かの縁と思い、起き上がって窓の外を見ると、ちょうど皆既月食のタイミング。せっかくなので少し眺めてみました。

はじめて肉眼で見る赤い月は不思議で、どこかただならぬ気配も感じられました。

こうした皆既月食は、3年に1回起こるそうです。
月食は、かつて文化によっては不吉だと怖がられたこともあるそうです。昔の人たちにとって、月がいつもと違うかたちで欠けていく様子や、赤い月というのは異常事態に見えて怖かったのかもしれません。

ただ、もちろん月は欠けているわけではありません。太陽と地球と月が一直線になっていて、月が地球の影にすっぽり入り、地球の夕焼けの光が月を照らすことで赤く見えるのだそう。

普段は体感することもないけれど、宇宙規模では、天体での配置が常に変化し、互いに影響しあっているということを実感できる貴重なタイミングでした。
太陽系の惑星は、地球もふくめてそれぞれの軌道を描きながら、らせん状にずっと太陽を追いかけている。
忘れがちだけど、太陽はものすごい速さで進んでいて、地球もまた太陽を追いかけている。以前、その図解の動画を見たことがあり、その軌道がとても美しかったことを覚えています。
そのなかで惑星がぴたりと一直線になる瞬間というのは、それだけでなんだか感動的です。それを少し体感できるのは、宇宙の神秘を感じられて、とてもいいなと思いました。

星々が常に前進しながら、まわりと影響し合い、なにかしらを形成してはまた作り直し、体験を重ねていくのは、私たちの日常も同じかもしれないな、と思います。
そんなことを感じたひとつのきっかけは、テレビ東京の「何ひとつ無駄にしないプロジェクト」という番組のロケに参加し、9月にその放送があったことです。

番組のプロジェクトで育てていたとうもろこしが鹿や猪に食べられてしまったそうなのですが、その苗も無駄にしないために草木染めをするという流れで、講師としてロケに参加させていただきました。

実際の放送でも、草木染めの活動をご紹介いただいたり、俳優さんたちが草木染めを体験している様子を番組の前半部分に使ってくださって、とてもありがたかったです。
(Tverでおそらくしばらくは見られますし、U-NEXTでも視聴可能です。もし良ければ見てみてください)

はじめてお会いする制作会社の方のお話を聞いたり、少しの間、その番組のためにわたしにできることをさせていただいたり。
そこには、ものを作り上げるためのさまざまなプロの方が、それぞれのお仕事を誠心誠意でされていました。
そしてまたひとつなにか形が完成すると、そのとき形成していた空間は閉じられ、また別の人の集まりができていって。
そしてまた新たなクリエイティブが生まれていく。

たまたま、今回の番組をテレビで見てくださった方がいたかもしれない。そのお茶の間での空間や、見て感じる感覚や伝わるものがまた生まれて。
そしてまた、忘れていったりして。
これも、ひとつの星々の出会いみたいに、互いに影響しあい、体験を重ね、また移り変わっていくものだなぁ、と思いました。
貴重な機会をさせていただけたことや、その一時の出会いも嬉しいものだったなぁとしみじみと感じました。

個人的には、みなさんが大切に育てたとうもろこしが、色として染まって、喜んでいただけたのがとても嬉しかったです。
制作の方々のお仕事を間近で見学させていただけたことも良い経験になりました。

そして、9月は私にとって、2025年後半の基礎講座と応用講座のはじまりの月でもありました。
新しいメンバーとのはじめましてのタイミング。こうして講座を見つけてくださったありがたさや、お会いできる嬉しさに、心も高鳴ります。
同じ日にご参加いただく方の集まりによっても、当日の話題は変わり、その日の天候も毎回違います。毎回が一期一会の時間で、これもまた人がその時々に集まり、作り上げている時間だなと思います。

そんな基礎講座の初回は、さくらんぼの枝染めを体験していただきました。

草木染めのお話などをお伝えしながら、丁寧に煮出した液で染めていきます。
一緒に染めていても、人によって微細な個性が表れているように感じます。
はじめましての会なので、どんなことにご興味がおありかをお聞きしてみたり、当日ご一緒する方との共通点を見つけたりしました。

ずっとやってみたかった、とお話してくださる方もいらっしゃって、はじめての草木染めとの出会うためにこちらへお越しくださったことがとてもありがたいです。
さくらんぼの枝の、頬がぽっと染まるような、あたたかさのある色に染まってくれました。
色々な場面でたくましく支える枝の力強さや優しさも、色や香りから感じていただけたかもしれません。

植物のおかげで、素敵な皆さんに出会わせてもらえていることが幸せだなぁと改めて感じました。

そして、応用講座は今回はじめての開催となりました。こちらは、これまでに基礎講座を受けてくださった方向けの講座です。
植物の色に集中する基礎講座の次には、植物のいろかたちを楽しみ、植物と一緒に創造して遊んでもらえるような時間にできたらと思い開催しました。

そのために育てはじめた、キバナコスモスや

以前から畑で育っているキクイモの花。

大事な藍の葉っぱも出番です。

パイナップルセージや、コモンセージ、オレガノ、エキナセアなど、畑や庭で育っているものを当日に収穫して、講座ではご用意しました。

花を並べていると、それだけで楽しい気分になってきます。

いよいよ応用講座がはじまりました。初回は、日本古来から行われてきたとされている、たたき染めです。
一番原始的な草木染めの方法でもあります。
藍の葉っぱは特にたたき染めに向いているので、藍を中心に、季節のフレッシュな草花を用意しました。

流れとしては、最初に中サイズのハンカチで、どの草花でどんな風に染められるかを試していただき、そのあとに、大きめの布を使ってお好きなように染めていただきました。
たたき染めをしながら、皆さんそれぞれに好きな植物が分かってきたり、植物に触れているとインスピレーションが湧いてきたりするのだと思います。
思い思いに集中して染めてくださり、それぞれがオリジナルな作品となりました。

たたくのは少し根気がいりますが、思ったよりも身近に、植物のいろかたちをうつして染められることを感じていただけたかと思います。
葉っぱによって葉脈がきれいに染まったり、色味が違ったり。染めながらハーブの香りをかいでみている方もいらっしゃいました。
完成を待つあいだに、植物たちの細部までみつめ、無言のなかでも草花との対話がたくさんあったのではないかなと思います。

完成後、風にそよいでいるハンカチはまるで絵画のようでした。
植物とのいろかたちを楽しむ時間、楽しんでいただけていたらとても嬉しく思います。

こうしてわたしの9月は、新しい出会いやはじまりの月となりました。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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