
こんにちは。アーキビストの馬場です。
最近、アーカイブス学の修士課程を修了し、正真正銘のアーキビストとして仕事をしている方とお会いすることがあり、自分自身をアーキビストと呼ぶことに違和感を覚えました。
そのため、前回の記事でも紹介した人類学者のティム・インゴルドが提唱している<アナーカイブ(Anarchive)>=”生きたアーカイブ”概念に倣って、アナーキビストと所々で自称し始めました。
しかしすると、多くの人から「馬場くんは、無政府主義(アナーキスト)なんだね!」と誤解を招いてしまう事態に。
「市から委嘱を受けている身なので、無政府主義はまずい」と思い、ここではアーキビストと自称させていただきます。
・・・
さて、私は富士吉田市のアーキビストであるのと同時に、大学院生でもあります。
大学院では質的調査法を道具に、社会学・人類学の領域に位置付けた研究を行っています。
その中でも、皆さんも聞いたことがあるかもしれない”コモンズ”というテーマを掘り下げています。
コモンズ(Commons)のもともとの意味合いは、共有地や入会地と訳される土地を指しています。最近では、クリエイティブ・コモンズ(creative commons)など、デジタル空間における著作権保護などに取り組む団体に使われたりします。
この言葉が世界的に有名になったのは、2009年にノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロム(Elinor Ostrom)が、1968年にガーネット・ハーディン(Garnett Hardin)が提唱した<共有地の悲劇>(”The tragedy of commmons”)の議論を反証したときでした。
<共有地の悲劇>とは、簡単に言えば「共有地では資源が枯渇するのが自然であり、国有地や私有地にするべきだ」という議論です。
例えば、ある牧草が生えた共有地があったとします。共有地を使っている3つの畜産農家さんたちは、それぞれの利益を最大限にあげるために家畜に多くの牧草を食べさせ、頭数を増やそうとします。3つの家畜農家さんが最大の利益追求をしたら、必然的に共有地は枯渇してしまい、結局誰も使えなくなってしまいます。
これに対し、オストロムは「全員が最大の利益追求をする」という前提から問い、「いや、みんなで共に生きようよ」と農家たちはお互いで独自のルールや習慣に基づき自己管理を行うだろう、と共有地・コモンズの管理の有効性を説きました。さらに、そうした共有地・共有資源を効率的に管理する「デザイン原則」(Ostrom, 1990 : 2022)を提唱しました。
とりわけ日本においてコモンズという言葉は、地域の環境問題が叫ばれた1970年代に、それに対峙する地域主体の発展のあり方を構想する地域主義や内発的発展論が、社会科学の分野で注目を集めた頃に認知され始めたと言われています(中川, 2023)
参照:
中川 秀一. 日本におけるコモンズ論に関する文献の整理 : 多様な展開の理解のための覚え書き. 法政理論 / 新潟大学法学会 編. 55(4):2023.2,p.92-110. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I032712159
Ostrom, E., 1990. Governing the Commons, Cambridge University Press.(原田禎夫ほか訳,2022,『コモンズのガバナンス』,晃洋書房)
・・・
そんなコモンズですが、実は富士吉田市にも入会地(いりあいち)があります。現在の北富士演習場内国有入会地です。名前からわかるように入会地でありつつ、自衛隊の演習場として提供された国有の土地であるため、完全なるコモンズとは異なります。しかし、旧11ヶ村入会組合;富士吉田市・山中湖村・忍野村(忍草)が毎年4月に火入れを通して入会権を主張しており、定期的に入会地に入って山菜を摘んだりする立派な入会行為が現代でも続いています。

【2025年4月13日(日)から2025年4月20日(日)に行われた北富士演習場内国有入会地の火入れ。旧11ヶ村入会組合に属する入会住民が集まり、各エリアでチャッカマンを使用して火入れを行う。安全対策の為に消防団も出動する。】
入会と山菜の存在は、地域の人たちの食卓を香豊かにする食材としても活躍します。富士吉田に住んでいると、入会地で採れた山椒を使うことはよく耳にします。先日は、下吉田にある<KURA HOUSE 蔵の台所>で料理研究家の井尻有美さんが「FUJI TEXTILE WEEK2025」の期間中に限定的に提供していた<富士吉田のごはん>を頂きました。地元住民のお勝手をリサーチしたレシピに基づいたメニューの中に、赤い山椒を使った味噌が出てきました。青い山椒からさらに熟成すると、赤い実ができるそうです。

【赤い山椒 2025年9月28日北富士演習所にて 写真提供:井尻由美さん】
また、以前ご縁があって参加した鐘山自治会の集会BBQで、コゴミの天ぷらが出てきました。その時は春だったので、当時の朝に山に入って行った現役で恩師林組合のパトロールを務める方が袋いっぱいに持ってきてくれました。
あまり声を大にして言えないのですが、富士吉田の入会地には知る人ぞ知る高級な松茸があるとか、、。
と、このように入会地は地域の暮らしを支えてきたコモンズなのです。
〜次回に続く〜





