藤崎 仁美

2026.09.30

草木とともにあるくらし 54

9月のくらし

9月は、ここ富士北麓も雨の多い月でした。
雨だと肌寒く、晴れると案外暑いような、夏から秋への変わり目の季節です。

雨が続くとしばらく富士山が見えない日が続きますが、時々一瞬姿を見せてくれます。
頭だけ見えたり、おなかだけ見えたり。

住んでいていつも富士山を近くに感じてはいても、雨の日の合間に姿が見えるだけで嬉しくなります。
富士山は見飽きることがありません。いつ見ても素敵です。

久々に河口湖のほうの滝へ行くと、ここ最近のの雨の影響で水量も多くなっていたように感じました。
いつにもまして水しぶきが激しく、すこしはなれて立っているだけでも、風に乗った細かな水しぶきを浴びるようです。

この滝の上に続く道はもともとは登っていけましたが、先日の河口湖の地震の際に落石があり歩道が崩壊したらしく、現在は通行止めとなっていました。

あの地震は夜中だったので、けが人はいなかったと思います。それだけでも、まだよかったです。
この上は、しばらく人が立ち入れない、ひっそりとした聖地となるのかなと思います。

外の景色を見まわしていると、まわりの植物もいよいよ秋のはじまりを感じさせる顔ぶれがそろっていました。

畑では、今年も藍がちいさな花をつけ始めています。

月の中盤くらいからは、畑のキクイモの花も咲いてきました。

そんな9月は『いのちの草木染め』の後期の講座がはじまる月でした。

会場の明見湖は、はすの花がまだ少し残っていましたが、月半ばになるにつれて、それも見えなくなりました。このまま、じっくりと枯れていく季節です。

赤とんぼも湖畔をきもちよさそうに飛んでいます。

草木染めの講座は、年度の後半は9月からスタートとしています。基礎講座と応用講座のはじまりです。
基礎講座は、本当にはじめましての皆さんとお会いできるので、来てくださることへの嬉しさと出会いのドキドキ感があります。

今回の基礎講座は、富士吉田市内をはじめ、河口湖、山中湖、塩山、遠くは三島や立川、神奈川からもご参加していただいています。
あまたある色々な教室のなかで、こうして見つけてくださりお越しいただけること、本当に嬉しいです。
なかには、富士吉田に訪れるのが初めてという方もいらっしゃいました。

富士吉田という土地の面白さや、なにより富士山に毎月出会える機会からも、たくさんのものを感じていただけるのではないかと思います。

そんな初回では、さくらんぼがなる桜の枝の色をみなさんに染めていただきました。

河口湖で大切に育てられているさくらんぼ。その木の枝たちを煮出すと、桜のいい香りがします。
その香りと一緒に色を染められるのは、やはり植物で色を染める醍醐味だなと思います。

色がだんだんと、目の錯覚のようにいつの間にか、しっかりと色づいていく。その刻一刻を大切に染めていると、微細な感覚もたちあがってくるような気がします。

色ってとても不思議で、意識して観察していると、その色には奥ゆかしい広がりや明るさがあったり、単なる『色』だけではない雰囲気を感じたりします。

はじめましてのみなさんと、和気あいあいと植物の色を染める時間は、だんだんと緊張もほぐれていくような、大切な時間です。

皆さんそれぞれに、素敵な色を染めてくださいました。

これからあと3回、この場所で定点観測のように、ともに植物を囲み、色を染めていきます。
年の後半も楽しみです。

基礎講座に集まってくださった皆さん、ありがとうございました。

そして、後期の応用講座も9月からはじまりました。

4月から7月にかけて基礎講座を受けてくださった方や、それ以前に基礎講座を終えられていた方と、また4回、ともに草木のいろかたちを染めていく時間がはじまりました。

年後半の応用講座の初回は、たたき染めです。

夏でないと、フレッシュな藍やそのほかの植物を用意するのが難しくなるので、いつも7月と9月にこの回を行うようにしています。
当日の講座の直前に草花を摘んでくるので、9月の前半と後半でも、少しずつ、庭や畑の植物のラインナップが変わります。

どの回でも、藍は必ず使えるように、畑でも応用講座用に確保して育てています。

あとは、前半の人たちには、よもぎやセイヨウオトギリソウがあったけれど、後半にはセイヨウオトギリソウがなくなったので、かわりに咲き始めたキクイモの花を持ってきたり。

雨の日と晴れの日でも、顔ぶれが変わってきます。その日その日の植物との出会いや、ご一緒する方同士の一期一会の出会いを、楽しんでいただけたら嬉しいです。

実際にたたき染めをしていると、あぁこの葉っぱの葉脈はこんな風になってるんだ、綺麗だなとか、この葉っぱはこういう色になるんだとか、葉っぱがみずみずしいか、肉厚かなど、手で触れることでいろんなことを感じます。

そこで生まれる、「あ、こうしてみようかな」というひらめきは、その植物と一緒に遊んでいるような、ともに創造しているような時間と体験だと思っています。

大人になっても、その夢中になるような感覚って素晴らしいし、そこにはたくさんの個性があって、その広がりをこうして見せてもらえるのも、わたしの喜びです。

その日の気分も一緒に、たたいて染めていく時間。

均等に配置してもいいし、自由に散らしてもいい。くっきりと柄を出してもいいし、あえてたたきすぎず、パステルで描いたような痕跡を残すのもいい。

ただ、たたくのは案外体力を要するものなので、わたしもひとりでやるときは、そのあと昼寝をしちゃったりするほど。

もし、たくさんたたくのが大変だったら、布にワンポイントのようにたたいて染めてもいい。
正解はないので、人それぞれの自由です。

こうして皆さん、たくさんたたいて染めていってくださいました。

ここには全員分の写真を載せきれませんが、どの作品も二つとして同じものはなく、どの植物を使おうかと手が伸びる感覚や、ふとひらめいてできる柄など、それぞれに個性があってとても素敵でした。
たたき染めを喜んでいただけていたらとても嬉しいです。

応用講座に参加してくださったみなさん、ありがとうございました。

そしてもうひとつ。今月はわたしにとってはじめてのことがありました。

富士吉田でアーティストインレジデンスをされている、SARUYA Artist Residency。
こちらでは、ヨーロッパをはじめとした世界中から集まったアーティストが、滞在しながら作品の制作をされています。

滞在中のアーティストから希望があった場合に、草木染めワークショップをさせていただくことになりました。

9月は、滞在中の4名のアーティストにむけてワークショップをさせていただくことになり、内容を組み立てていきました。

基本の草木染めについて体験できること、そしてまずはアーティストたちに色のバリエーションやプロセスを味わっていただくこと。この2つを軸として、ワークショップの内容を決定していきました。

今回は縫製品を染めるのではなく、素材違いの布のちいさなピースをご用意して、使う鉱物によっても色を分けて、小さなパレットの色たちのように染めていただくことにしました。

そして今回は、ローカルで日本らしい植物にしようと思い、畑で育てているフレッシュなよもぎを当日に摘み、皆で染めていきました。

今回は、アーティストたちの滞在しているアトリエにわたしが出向いての開催だったのですが、そこにはアーティストたちの作品も並んでいて、少し見せていただけて嬉しかったです。

毎月一度、こちらでは滞在アーティストのオープンデーが開かれていて、その日はだれでも彼らのアート作品を見学できるオープンアトリエになっています。アーティストがいれば、お話もできます。
わたしも先月お邪魔して、作品を見たり、説明してくださったりと、とても刺激になりました。ご興味ある方はぜひ。

さて、当日は、よもぎをカットするところからはじめ、それを煮出していきました。
小さいですが、一人9枚も布のピースがあるので、皆で手分けして色を染めていきました。

面白かったのは、それぞれの分野で活動しているアーティストたちが、そのプロセスのなかで、これをやってみたい、と沸いてくるひらめきがあること。そして、その流れを大切にして、さらに実験していく姿。
目の前でクリエイティビティがうまれるところを垣間見せてもらったようで嬉しかったです。

私の英語が不十分なところもあったかと思いますが、皆さんがとてもハートフルであたたかく、チャーミングで素敵な方たちで、同じ時間と体験を分かち合えて幸せでした。
喜んでいただけたことが、何より嬉しかったです。

よもぎたちも、みなさんに色を楽しんでもらえて嬉しかったことでしょう。

こうした機会をいただけて、とても光栄でした。

アーティストのみなさん、サポートしてくださった素敵なスタッフの皆さんに、あらためて感謝を。

わたしの9月は、自分の中のあたらしいことへのドキドキや、ちょっとした勇気。
そして、たくさんの笑顔に触れた、人に恵まれたなぁというありがたさを感じたひと月でした。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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