FUJIYOSHIDA DIARY MAGAZINE

土地・環境

藤崎 仁美

2023.04.25

草木とともにあるくらし13

4月の富士吉田

4月になり、富士吉田でも暖かい日が増えました。
3月までは芽吹きはじめていた植物たちも、4月に入ると、待ってましたとばかりにお花が咲いてきました。

冬の間に、枯れた景色をすっかり見慣れてしまっていたので、こうしてまた春の植物の息吹を感じると、自分の感覚が冬眠から目を覚ましたような気分になります。

外では優しい風が吹いて、いろんなお花が揺れて、鳥が鳴いて、蝶が飛んでいて。

いろんな色にあふれていてにぎやかで、生命力を感じる、楽しい季節。

あぁ春ってこういう感じだったな、と思いました。冬に落ち着いてしまっていた五感がまたひらいてくるような感じがします。

この感覚は、富士吉田に住むようになってから特に感じるようになりました。
それは自分が単に年を重ねてきたからなのか、それとも暑い時期と寒い時期の寒暖差が激しいせいなのかわかりませんが、
冬になると、春や夏の感覚をすっかり忘れてしまっているようです。冬に浸りきってしまったせいでしょうか。

春を生きるよろこびと、それを感じる感性が、冬の間は眠ったような感じになるのでしょう。

だからか、毎年春がやってくると、よろこびを鮮明に感じられるようになりました。

きっと、富士山の雪が解けていって見え方が変わっていくこと、季節がきたらキジが鳴くこと、道端に咲いているお花が変わっていくこと、鳴く虫の種類が移り変わっていくことのように、移り変わる季節のサインを日常の中で感じているからかもしれません。

家の庭では、チューリップの球根が残ったままだったところから、お花が今年も咲いてくれました。
すっと伸びた緑色のつぼみがだんだんと黄色になっていく様子が、とても綺麗で、つい見とれてしまいました。

晴れた日には大きく開いて、寒くなると、花をちょっと閉じて。
チューリップの鮮やかな黄色がまぶしくて、見ているだけで楽しい気持ちになります。

富士吉田の桜も、どんどんと咲いていきました。
例年、富士吉田の桜の開花は、他の地域と比べるとワンテンポ遅いイメージですが、今年は例年に比べて、早かったような気がします。

富士吉田市内のなかでも標高の低いところから咲き始めて、だんだんと標高の高い地域の桜が咲いていきます。

市内の中でも、標高差によってグラデーションに桜の開花模様が浮かび、山の傾斜が鮮やかに眼前に広がります。

今年は、数年ぶりに、富士山と桜を観に来る国内外の観光客が増え、通りから富士山を撮影する人でいっぱいになっている道もあるほどでした。

観光客にあふれる風景は、この数年はまったく見られなかった景色なので、なんだかとても懐かしいような、不思議な気持ちになります。

はるばる遠い島国まで、桜と富士山を観に来られた人たちが、楽しい旅路を送られることをそっと願いました。

さて、4月は私にとっても、新しい生活がはじまりました。

縫製の学校が終わり、縫製は自分で練習を続けることに。個人的には草木染めの活動をしつつ、市内のお花屋さんで働くことになりました。新しい環境で、新しい暮らしのリズムがうまれています。

まだまだわかっていないことばかりですが、大好きな植物と関われることが嬉しく、お花の扱い方を学べることもありがたいです。

お花屋さんという場所には、お花が好きな人や、暮らしを美しくしようという感性を享受する人が来てくださったり、お祝いにお花を贈ろうという人が来てくださいます。

誰かを祝福したい、励ましたい。優しい気持ちをお花に託して贈ろうとする、人の想いは尊いなぁ、と感じます。

そして、お花をもらうことって、本当に嬉しいこと。
それは、お花のもつ美しさや純粋さ、そして贈る人の優しさが伝わるからだと思います。

美しいお花と関われること、そして優しい想いの循環の中でお仕事できることが(もちろん責任もありますが)ありがたいなと感じています。

植物とも、もっと仲良くなれたらいいなと思っています。
そんなはじまりの4月です。

4月の草木染め

この春はありがたいことに、河口湖の農家さんから、桃の剪定枝と、さくらんぼの剪定枝をいただくことができました。

その枝とともに過ごしている4月。
知人からの依頼で、お洋服を預かり、私が桃染めをしてお渡ししたりしていました。
また、さくらんぼの枝を煮出して、どんな風に染めることができるかの試作をしています。

今回は、さくらんぼの枝の染めのお話を少し書いてみます。

まずは、いただいたさくらんぼの枝を、染めやすくするために切っていきました。
切った断面がまだフレッシュな緑色で、水分が残っているのがわかります。

切り口をかいでみると、ほんのり青いフレッシュな香りがします。

この枝を煮出していきます。試行錯誤しながら、雑味の分は捨てたり、数日かけて煮出したりして、染液をつくって染めてみました。

煮始めは、木の皮らしい、ごぼうのような土っぽいにおいがしますが、染液を作っていくうち、とっても美しい香りがするようになってきました。
ちょっと香水のような、品のあるうつくしい香り。

桃の枝も、染めていると明るい甘い香りがするのですが、桃ともちょっと違う、さくらんぼの枝の香り。

桜は桜餅のあの香りを持っていると思いますが、あのさくらの香りが、もう少し変化した香りなのかもしれません。甘く上品な香り。個人的にはとても好きです。

この香りに包まれながら染められることを喜び、真っ白なシルクのシフォンストールと巾着を染めることにしました。
どんな色になるかな…とドキドキしながら、静かにじっくりと染めていきます。

気持ちよく染まるように、手で布を動かしながら、丁寧に染めていきます。
そうしていくうち、だんだんと、桜の色に染まっていきました。

色を定着させる媒染という工程を経て、よく水洗いをして、乾いたら、こんな色を見せてくれました。

富士北麓で育ったさくらんぼの枝が見せてくれたのは、やわらかい、ちょっと赤みがかったピンク色でした。

ふんわりした桜の精のような、とっておきの色です。

これはシルクですが、リネンや綿を染めてみたところ、また少し違った色味になりました。
枝によっても差があるし、煮出した長さによっても、染める素材によっても変わってくるので、色との出会いはいつも新鮮で、その時々がいつも大切な時間です。

今月は、このさくらんぼの色が見られて、とても幸せでした。

春と初夏のあいだのようなこの短い季節、あと少し、大切に楽しんでいこうと思います。

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藤崎 仁美

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。そして、2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
現在は、染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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