FUJIYOSHIDA DIARY MAGAZINE

土地・環境

藤崎 仁美

2023.09.05

草木とともにあるくらし17

8月の富士吉田

8月になり、庭ではピンクの可愛いユリが次々と咲きはじめました。

小さめな可愛いお花に対して、めしべとおしべが長く下がっているようすからは、たくましい生命力や野性味を感じます。

名前を調べてみると、カノコユリ(鹿ノ子百合)という名前でした。

環境省のレッドリストに載っている、絶滅危惧種なのだそう。

薬草や植物を調べていると、「絶滅危惧種」という言葉がよくでてきてちょっと切なくなります。

市内のはす池では、先月に引き続き今月もたくさん蓮の花が咲いていました。

「今年は雨が少ないから背丈が高いね」と話している人の言葉が耳に入ってきて、毎年眺めている地域の方は、その年ごとの違いによく気づいているんだなと思いました。

今年の梅雨は雨がほとんど降らなくて、梅雨の間に傘をさした記憶が思い出せないほど。畑の土は見たことないくらいカラカラになっていました。

でも、ここの蓮はいつも泥に根ざしているから、泥が干上がりでもしない限りは梅雨時期に雨が降らなくても元気なんだなと思いました。

その植生に興味がわいてちょっとだけ調べてみたところ、なんと蓮の花は植物のなかでももっとも古いものの1つで、1憶4千年前から地球上に存在していたそうです。また、蓮の実(種)は非常に硬く、2000年前の種も発芽するくらいに生命力があるそうです。

蓮のいのちのスケールの大きさに驚きました。

また、蓮の花は4日ほどで散ってしまうらしいのです。1年で4日しか見られないお花に出会えたことに感謝の気持ちが湧きました。

花が散ったら実がなって枯れていって、次のサイクルに向けて根っこで栄養をたくわえて一旦お休みして。また次のサイクルへと移っていくそうです。

そんな生命感のスケールの大きさをこちらに感じさせず、ただただ発光するように美しい蓮の花に、心が癒されました。

そんな8月には、夏の富士山のすがたがよく見えました。

よく見ると麓にかけて緑が深くてふかふかしています。山梨に住むようになってからもう8年目ですが、いつ見ても新鮮に感じます。

ちなみに最近は、富士山の姿のなかでも夕暮れ前に見る姿がとくに好きです。

大体気づくのはいつも運転中で、神々しい富士山が見えて写真を撮りたくなるのだけど停まれず。富士山が見えやすいところへ移動している間に、あっという間に陽が沈んでいく。

なかなかその瞬間の富士山は写真に撮ることが出来ません。

陽が落ちていく前に照らされる富士山は、ドレスの裾みたいな、山の麓のドレープのようなシルエットがくっきりと映し出されて、全体的に光が透けているように見えるのです。その輪郭や陰影が美しくて、見とれてしまいます。

ほんのひとときの美しさを、いつか写真に納められたらいいなと思いつつ、きっと写真にも写りきらないのだろうなとも思います。

時期がちょっと遡りますが、7月末には、個人的にあたらしい挑戦がひとつありました。

ありがたいことに、河口湖の中央公民館で開催されている生涯学習講座で「草木染め講師をしてみないか」とお声がけをいただいて。

それをきっかけに、『草木の色と出会う 草木染め講座』という4回連続の講座を開催させていただくことになり、その第1回目の講座を無事に開催させていただきました。

募集の段階では「参加者の方、来てくれるかな…」とドキドキしていましたが、ありがたいことにすぐに満員御礼となり、7名の方の受講が決まりました。

名古屋に住んでいたときに機械設計の3DCADの講師をしていた時期があったので、「講師としてなにかを教える」というお仕事はまったくの初めてではありませんでした。ですが私自身が考えて講座をさせていただくのはまだまだ不慣れで、至らないところもあったかもしれません。

でも興味のある方が集まってくださり、ともに草木の色と出会う優しい時間を過ごすことができてとても嬉しかったです。

今回の講座では草木染めのお話と、こちらで用意した河口湖のさくらんぼの枝を煮出してつくった染液で、シルクのシフォンストールを染めていただくことをしました。

草木染めをやってみたいという気持ちはあっても、「なんだか手順が多くて難しそう…」という不安であったり、「道具を用意するのがちょっと大変だな」というハードルの高さだったり。それから「失敗したらどうしよう」「よくわからないからなんだか楽しめない…」ということもあるのかなと思うのですが、一緒に体験していただくことで、気難しいものではないと感じていただけたかなと思います。

奥が深いけれど、やっていることはシンプルでお料理とそんなに遠くないもの。

「ずっとやってみたかったの」と言っていただけたりして、「人生のなかでいつかやってみたいという想いを叶えられる一助になれて良かった」と心から嬉しく思いました。

「草木染め」というのは草木を材料にして布やなにかを染めることで、クラフトのようでもありますが、私にとっては植物への感謝があってはじめて成り立つものです。

そこにいのちがあること、自然の美しさを教えてもらうこと。そして植物との交流を通して癒されたり、色に感動したり、地球で生きていることを肯定したりするためのもの。私は草木染めを、「地上で生きることを祝福するセレモニーのようなもの」としてとらえています。

太陽の光や染めるときに煮出すための火、植物を育む恵みの雨、染めて洗う水、

葉を揺らし花粉や種子を飛ばす風、植物が根を下ろし育まれる豊かな地、色を定着させる鉱物。

染めに限らず、それらがあるから人間も生きていられることに意識を向ければ、ありがたいことしかなく、間違いなく生かされていて、不可分に大地に愛されていて。それは「祝福以外のなにものでもないなぁ」と思います。

そして植物が見せてくれるいのちの色が美しいように、わたしたちのいのちもまた尊い。自然界には正解も不正解もなく、失敗も成功もなく、善悪などの二元的な価値観よりも大きな摂理のなかで、皆がひとつになって世界を生きている。 

そういったものにほんのすこし触れるための体験として、草木染めがあったらいいと思っています。

「この植物はこの色」と決めつけてみても、いざ染めてみるとまったく同じにはならない。

それは人間と同じように、植物もいのちある生き物で個体差があって、季節ごとに持っているエネルギーも違っていて、育つ地域や環境によっても微細に違いが出てくるから。さらに染めている人の気持ちやその日の状態も伝わって、あらわれてくる色に影響していると思っています。

命に優劣も貴賤もないことと同じように、植物からの色に良い悪いはない。

そこでいのちと引き換えに見せてくれた色に、良い・悪いなんて私にはつけられない。

もちろん、個人の色の好みはあるけれど。それはそれとして、良い悪いということではないから。

草木染めの講座でも、「植物との出会い」や「いのちの色との一期一会を大切にすること」をお伝えしたいと思っています。植物への感謝の気持ち、そして今日この地球上にわたしたちも生きていること、そのいのちが共鳴する優しい時間を体験していただけたらいいなと思っています。

まだまだ不慣れなところもありますが、一期一会のご縁でともにお染めできる時間をいただけたことに感謝して残り3回の講座も行いたいです。

またその先には、「自分で草木染め講座も開催できたらいいな」と思ってみたりもしていますが、それはまた今度。

                   ・・・

そんな挑戦もありつつ、今年の夏は身体と向き合う日々がたくさんありました。まわりでも風邪が流行っているのを感じてはいましたが、寝冷えしてから夏風邪をひき1年ぶりに高熱が出ました。

症状がある少しの間はつらいものですが、風邪は身体が懸命に闘ってくれている最中だから、不摂生や免疫が下がるような行動には反省しつつ、身体の細胞たちにありがとうと思いながら過ごしていました。

風邪をひいた時、解熱剤や抗生物質のお薬を飲む方もいるかと思うのですが、風邪には特効薬がないというのは病院でも説明されました。

一説では、むしろ風邪をひいたときに上手に経過させることで、身体はねじれを解消したりバランスをとったりしているという話があります。風邪をひいて身体が調節しているおかげで、いきなり大病になってしまうのを防げているそうです。

風邪をひいて症状が出ているときは、熱を出して体温を上げることで身体はベストな状況を作り出し、一生懸命に治癒しようとしてくれていて。

そこで解熱剤を飲んだりしてしまうと、ウィルスをやっつけきれずに長くウィルスが身体のなかに残ってしまい、治りが悪く長引いたりするという話も。

念のため検査はしましたがコロナでもインフルエンザでもなかったし、特殊な症状でもなかったので、私は解熱剤や咳止めなどの薬は使わず休養していました。

今年は家にいろいろなハーブを常備していたので、薬のかわりにこれまで習ったことを実践する機会にしてみることに。

庭で育てていたエキナセアの花を乾燥させていたものがちょうどあったので、風邪のひきはじめのタイミングでハーブティーとして飲み免疫力をサポートしてもらったり。

起きているときにはエルダーフラワーのハーブティーを飲んだり、喉が痛いときにはタイムのハーブティーでうがいをしたり、はちみつをなめて喉をケアしたり。寝る前には呼吸器が少しでも楽になるようにと、サイプレスとフランキンセンスのアロマオイルを数滴入れたホホバオイルを、喉やデコルテに塗ってみたりしました。

サイプレスのアロマオイルには咳を鎮めてくれる成分があり、フランキンセンスのアロマオイルには呼吸を深くしてくれる効果が。またどちらの精油にも抗菌・抗ウィルス作用があります。いい香りに気持ちがリラックスできたこともありがたかったです。

こういうハーブやアロマを常備していたこと、植物療法の教室で学んだことや本を持っていたことで、自己治癒力だけでなくケアの方法があることに意識を向けられて、安心感にもつながっていたように思いました。

とくにタイムのハーブティーでのうがいは、効き目がとてもあってありがたかったです。

市販のうがい薬は、のどが炎症してしまっている時に使うと痛くて良くないそうなのですが、ハーブティーでのうがいはしみたりしないし、うがいしたあとの調子がしばらく良くなって咳も止まっていたので、のどが痛い人にはとてもおすすめです。

こういったハーブやアロマを家に常備しておけばいいのですが、それでもいざ不調が出たときに、「『その人の体調も加味した上で』とハーブティーやアロマオイルを調合して処方してくれるハーブ薬局みたいなところが近くにあったらさらにいいなぁ」なんて思ったりしました。

さて、そんな風邪も治ったころ、たまたま本栖湖の花火を見に行くことができました。

富士五湖の夏の花火は、5夜連続で各湖で開催されます。最初に8月1日に「山中湖・報湖祭」が開催され、2日には「西湖・竜宮祭」、3日の「本栖湖・神湖祭」、4日の「精進湖・涼湖祭」、5日の「河口湖・湖上祭」と続きます。

私は、3日目の「本栖湖・神湖祭」へ行きました。

なんとなく人込みに向かうのが苦手だったりして、いつも花火の音が遠くから聞こえてくるのを家で聞いてるような感じでしたが、今年ははじめて本栖湖の花火へ。

湖とまわりの山に囲まれた自然豊かな環境のおかげで、落ち着きもあり風情があります。

名古屋にいたときに見たいくつかの花火は、駅から人込みのなかを土手まで歩き、なんとか見える場所を確保しBGMも鳴り響いて派手な花火で大盛り上がり。帰りの地下鉄も人がたくさんで大変でしたが、それも夏らしいというような思い出でした。

本栖湖の花火は、花火が上がる最中にはBGMもなく、派手さやスペクタル感もなく。静かにひとつひとつの花火が、「ひゅう~」と空高く昇っていくのを皆が見上げて見守って。大きく「どん」という音が山に響いて、そこからゆっくりと花火が開き、そしてまたゆっくりと燃え尽きた火の粉が闇夜に消えていく…

その様子を見ていたら、なんだか胸打たれて感動してしまって、涙が出てきてしまいました。

打ち上げている花火師の方の存在や皆が見つめる花火と、本栖湖という場所にある自然の雰囲気とが相まって、心にダイレクトに響いた花火でした。

「日本の夏は美しいな、また来年も来たいな」と思いました。

花火が終わったあとには、書道家の方による書のパフォーマンスがあり、大きな筆で「神龍」と書かれていました。

本栖湖には、龍神伝説があるそうです。

西暦800年の富士山の噴火の前に、本栖湖に棲んでいた龍があらわれて「近いうちに富士のお山が噴火する」と村人にお告げをし、そのおかげで村人が難を逃れたというものだそうです。今も湖の近くには龍神さまが祀られています。

水を司るといわれる龍神さまの伝説に思いも馳せつつ、思い出深い夏の夜になりました。

8月の草木染め

春にたねまきをして、畑で育ててきた藍。

今年の梅雨時期にはほとんど雨が降らず、畑はびっくりするほど乾燥してカラカラになり

雑草が焦げていたほどで、藍たちも暑さにやられて育ちにくそうでした。

藍たちは水が大好きなので、いつも梅雨時期の雨のおかげで大きく成長します。そのため梅雨に雨が少ないと、なんとか生きてはいるものの部分的に葉っぱが枯れてきたりしてしまいます。そしてその環境ではなかなか大きくもなれません。

いつもは梅雨時期に水やりはしませんが、今年はじょうろを持っていき何度も水やりをしました。功を奏して藍は枯れず、梅雨明けしてからは雨が多くなったので元気に育ってくれて安心しました。

雨のありがたさを身に沁みて感じて、雨乞いの文化にも想いを馳せたりしました。

そんな私の夏の一番の大切なことは、藍を染めることです。

8月の半ばには、いよいよ葉っぱの色が深くなりぷっくりとしてきた藍。そろそろ染められるよ!という準備万端さを感じて、さっそく染めていきました。

ちなみに藍染めは、日本ならではの固有の文化のように思われがちですが、じつは古代から世界中で染められてきているものです。

紀元前2000年頃のものといわれる藍染の麻布が巻かれた古代エジプトのミイラがあったり、中国の紀元前4~3世紀ごろの時代のことわざで「青は藍より出でて藍より青し」という有名なものがあったり。当時すでに藍が染められていたことが分かっています。

世界の藍の種類もさまざまで、私の育てているタデアイだけでなく、ヤマアイ、リュウキュウアイ、インドアイ、ウォード、タイセイなどたくさんの種類があります。見た目もけっこう違うのだけれど、同じ藍の色素を持っているので藍と分類されているのだと思います。

日本では奈良時代に中国から入ってきていて、平安時代にはヤマアイを使って染色がされていたり、タデアイは薬草としても用いられたりしていました。当時の薬草辞典である『本草和名』には藍の実が解熱剤として、また「長く服用すると白髪になりにくく身の動きが軽くなる」などと記載されています。

そして江戸時代半ばになると、藍の葉っぱや種を、ふぐの毒にあたった時の解毒に使ったり解熱剤として使ったり、旅の際には藍の葉っぱを携帯して食あたりや熱さましのに使用したといわれています。また上流階級から庶民にまで藍染めが広まり、日常のなかでたくさん使われるようになりました。

藍で染めた肌着は冷え性や肌荒れ、あせもに効果があるとされたり、藍染めの風呂敷に包んで本が虫に食われないようにしたり、藍染めの足袋を履いて水虫を防いだり。「藍染めを着ていれば蛇なども近寄らない」といった生活の知恵もあったそうです。糸を強くするために藍染めしていたとも言われています。

ちなみに、漢方のなかには「板藍根」というものがあります。これはSARSが問題になったときに効果があると話題になった漢方で、 リュウキュウアイ(馬藍)、タイセイ(松藍)、ホソバタイセイの根でつくられる生薬です。インフルエンザ予防にも効くそうで、私も板藍根のお茶や板藍根エキス入りの飴などを購入したことがあります。

藍は、そんな強力な毒消しの薬草。

その藍が見せてくれる色は、気持ちも落ち着けてくれる神秘的な色です。染めるときどきで地球のような色でもあり、きれいな淡い海のようでもあり宇宙のような色でもある。大好きな薬草です。

そんな藍を染めていきました。

藍を刈り取り染液をつくり、すぐに染めていきます。

藍の生葉染めは鮮度が命なので、収穫して染液をつくってから置いてしまうと色がくすんでしまいます。染液をつくってからはより集中して、スピード命です。

この鮮度が必要だからこそ、近くで育てていないと染められない。葉っぱを乾燥させてしまうと、煮たとしても生の葉っぱのような綺麗な色は出せません。育てているからこそ染められる、大切な色です。

染液からあげたらよく絞って、空気に触れさせます。藍は、酸素と出会うことで酸化し、それが色の発色と定着になるのです。よく空気に触れさせたら、しっかり水洗いをして完成です。

富士山の麓で何年も育ってきた藍たちからもらった、いのちの色。

感謝とともに恵みを受け取った、8月のくらしでした。

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藤崎 仁美

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。そして、2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
現在は、染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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