FUJIYOSHIDA DIARY MAGAZINE

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藤崎 仁美

2023.12.05

草木とともにあるくらし20

11月の富士吉田

11月に入ると、これまでよりもぐっと冷え込むようになり、寒くなってきました。

深夜には−2℃にもなり、いよいよ冬シーズンの到来を感じます。

まだ急激な温度の変化には慣れず、急な冷え込みに体も驚いているようです。

外では山が少しずつ紅葉したり、早いものは葉が散って、風に舞っています。

春や夏に、表面に出てきて勢いよく成長したものが落ち着き、そろそろ交代するかのように乾いて枯れていって、風に吹かれて飛んだりしながら、土へと還っていく時期。

今年に入ってからこれまでを振り返って見つめてみると、年始に思い描いていたものが想像しなかったかたちで育ったり、当時は自分でもはっきりしていなかったものが明らかになったり、今回は芽が出なかったものもあったり。今年の刈り取りをして、また地ならしをするようなタイミングでした。

今年に入っていろいろ体験してきたことや、すでに終わっているもの、気づけばもう必要のなくなっていた考えや、物理的な物の整理をしたりもしました。

風に舞っていく枯れ葉を見ていると、「私も必要のないものを葉っぱみたいに手放そう」と思えたり、来年に向けて続いていくような何かがたしかに自分のなかに息づいているのを見つけたり。自然と同調しながら、これまでのかたちを見つめ、これからのまだ見ぬ輪郭をうっすら見ていくような、11月はそんな季節の過ごし方が合うような気がします。

さて、時期はちょっと遡ります。10月末に、河口湖の中央公民館の生涯学習講座にて『草木の色と出会う 草木染め講座』の4回目の講座を、無事に開催することができました。

初回の枝、2回目の葉っぱ、3回目の実と続いて、最終回は根っこを染めることに。

今回使うのは、薬効も高く歴史も古い、西洋茜の根っこです。

茜はとくに染料としての歴史が古く、古代エジプトのミイラを巻く布を染めていたことがわかっていたり、日本でも弥生時代の卑弥呼が魏の国に贈った絹布は茜で染められていたとされていたりします。実は国旗の日の丸の元になったのも、ペリー来航後に茜で染めた色だったり。ほかにも、茜は血行を良くしてくれるということで、茜で染めた衣服や下着を身に着ける風習もあるなど、人間とのかかわりの深い植物。そんな茜を染めていきました。

茜の根っこは、これまでの植物ともちょっと違っていて、煮出すと独特な香りがたち、その色のパワフルさは類を見ないほど。

実際に煮出しているときのたぎる染液の色や香り、蒸気などを感じながら、自分の手で染めていくことで、五感で茜の力強さを感じていただけたのではないかと思います。

4回連続講座が終了し、あらためて思うのは「こういったお教室の機会をいただけて、ありがたかったなぁ」ということ。

至らないところもたくさんあったかと思います。それでも皆さんが、色と出会う素直な喜びを表現してくださったり、「お家でもやってみたよ」と話してくださったり。喜んでいただけるのが嬉しかったです。

デジタルが主流の時代だからこそ、蒸気や植物の香りを感じながら、色との一期一会を味わってみることも「時には新鮮で良いのではないかな」と思っています。

とくに、草木染めでは、答えが一つではないこともいいように思っています。

どんな植物と出会って、今日という日にどんな色と出会えるのか、未知数だからこその気持ちの自由さがあるように思うのです。そういうところも、草木染めの好きなところです。

中央公民館での講座は4回講座だったので一旦これで終わりですが、これからは自分でも開催してみようと思っています。

まずは初回として、富士吉田にて、河口湖で育ったクロモジを染めるワークショップを開催してみることにしました。もうすこしで開催ですが、その様子はまた次回。


11月の草木染め

庭では1mくらいまで長く伸びたセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)が、種をつけたあとに枯れてきていました。

よく見ると、根本からは青い葉っぱがまた生えてきています。

今年の役目を果たした古い細胞は枯れて土へ還ろうとしている一方で、根本ではこれから続いていく新しい生命が誕生し再生しているのでしょう。

伸びきって枯れているところをそのままにして冬を迎えるのもちょっと…ということで、

伸びて枯れてきていた部分を刈り取って、セントジョーンズワートの色を染めてみることにしました。

セントジョーンズワートは、ヨーロッパで古代から医療に使われてきたハーブです。

紀元前から、民間療法で医療に使われたり、延命や火災、精神疾患など悪いことから身を遠ざけるための「魔除けの植物」として使われたりしたといいます。

外用として傷や打撲ややけどの薬とされるほか、内服して不眠症や更年期症状、うつ症状の治療薬として使われてきています。

ドイツでは研究が進んでいて、脳の神経伝達物質のバランスを整えて、気分の落ち込みをやわらげることで、抗うつ剤と同様の効果をあらわすことや、単独で使用した場合には副作用がないという結果もあり、医薬品として認可されているそうです。

アメリカではサプリメントとして、「サンシャインハーブ」とか「ハッピーハーブ」と呼ばれて、心を前向きにしてくれたり、気分を向上させたり安定させる元気が出るサプリメントとして親しまれているそう。(妊婦さん、また他の医薬品との飲み合わせには良くないものがあるので、薬との飲み合わせには注意が必要です)

日本では、日本の在来種のオトギリソウがもともとは薬用として用いられていて、江戸時代中期の書物にはその薬効などが記載されています。

そんな、実は古くから人に寄り添ってきてくれた、落ち込みがちな心を明るくしてくれるハーブのセントジョーンズワート。ふさぎがちな冬にもありがたい存在です。

これまでにも、黄色の小さなお花を摘んではチンキをつくったりもしましたが、お花の黄色になるかと思いきや、驚くような赤い色になりました。その奥にある血のように赤い色から、生きる力強さを分けてくれるような叡智を感じます。

今回は、少し枯れてきていた枝や残っていた葉っぱなどを一緒にまとめて煮出していきました。

染液をつくったら、ゆっくりとコットンのハンカチを染めていきました。

セントジョーンズワートから染まったのは、赤みのあるきれいな茶色でした。

今の時期に合うような、とても好きな色です。今年のセントジョーンズワートの色。

「今年も育ってくれてありがとう」という気持ちと、また来年も芽を出して育ってくれることを願いつつ。

これまでの感謝と、そしてこれからの息吹に想いを馳せるような私の11月となりました。

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藤崎 仁美

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。そして、2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
現在は、染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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