藤崎 仁美

2024.12.31

草木とともにあるくらし33

12月のくらし

12月に入り、富士吉田ではいよいよ気温が下がってきました。

ある朝、外に出ると地面が固く、ざくざく音を立てていて、よく見るとたくさんの霜柱ができていました。

こうして夜の間だけでも地面が凍るようになると、植物たちはいっそう枯れる速度を速めて、土へ還っていくものが増えています。

本格的に寒くなればなるほど空気はいよいよ澄み渡り、寒いけれど冬らしい富士山がきれいに見える季節でもあります。

先日、山中湖のパノラマ台へ行ってみると、新しいデッキが出来たばかりだったようで、駐車場に入りたい車が数台並んでいるほど、たくさんの人が来られていました。

富士山と山中湖が一望できる、すばらしい景色が見られました。

そんな12月も半ばになると、初雪が降りました。

粉雪みたいに軽くてさらさらと音もなく降る様子は本当に綺麗です。まだ積もる雪ではないので、安心しながら眺めていました。

一瞬で景色の雰囲気をがらりと変え、また太陽によって何事もなかったかのように溶けていく雪は、毎年、深い印象を与えてくれます。

とくに、雪が降っているときの音の感覚はとても印象的だなと思っています。雪は音を吸収するのか、林や山も沈黙するのか、鳥たちも静まっているからなのか、もしかすると、白い色は、人の心にまで静けさを伝えるものなのかもしれません。

私は寒いのはめっぽう苦手だけれど、まるで真空状態みたいに、しん、と静まるなかで、無数の雪が舞うのを見るのは、いつもなんだか感動してしまうものです。

庭で最近まで元気だったセージも、いよいよ色が褪せてきて、地上部は枯れていこうとしています。朝起きると、葉っぱを触って香りを嗅いで目を覚ますのが晴れた日のルーティンみたいになっていたので、弱っていくのを見るのは寂しいですが、なんでもその時々のタイミングがあるから執着していられないので、静かにそのプロセスを見守っています。

この日の初雪はうっすら積もったかと思うと、太陽のおかげであっというまに溶けていきました。この光に照らされてきらめく雪の粒が好きです。

寒々しくなってきたせいか、数日だけ軽く喉が腫れたことがありました。体も冷えていたので、なにか体も温めてくれそうなホットドリンクが飲みたくなり、ゆずを買って、ゆず茶をつくってみました。

材料はゆずとはちみつだけ。ゆず茶というかゆずのはちみつ漬けです。皮の白いところも全部入れてつくったので、皮自体も食べるとちょっと苦みがあったけれど、お湯を注いでホットドリンクとして朝や寝る前などに飲むと香りが良くて、癒されました。

ゆず茶のおかげもあってか、数日したら喉の腫れもおさまり、風邪らしい風邪に発展しなくて良かったです。

ゆずは、レモンの何倍もビタミンCが豊富で風邪予防に向いていたり、皮に含まれる成分が血の巡りを良くして冷えを改善してくれるそうです。風邪をひきかけのときに飲みたくなったのも体が欲していたからかもしれません。冬にぴったりだと思いました。

また、12月に入ってクリスマスを意識するようになる頃、お花屋さんに登場するヤドリギを買ってきました。

山中湖などの高い木の上にたくさんいるのはよく見えるけれど、高すぎて詳しくよく見えなかったヤドリギ。お家に飾って近くで見ると、特徴的な枝分かれした葉っぱと真ん丸の瑞々しそうなオレンジの実が印象的です。

ケルト文化に詳しい友人から、「死と再生の象徴なんだよ」と教えてもらってから少し調べてみると、ちょうど冬至のときに、太陽の復活の儀式をするときに大事な植物だったと知りました。それもあってこの時期にお花屋さんにも登場するのかもしれません。

太陽が一番短くなって、ここから陽に転じていく冬至に、日本だけでなく世界でまた季節やいのちの再生を願い祈る文化があるのはなんだか感慨深いなぁと思います。

そんな私の12月は、土や根っこや石といった大地の恵みに思いを馳せることが多かったです。

そのひとつとして、東京まで石の色の展示を見にでかけました。今回は、とても尊敬している抽象画の芸術家の方の作品が展示されると知ったことがきっかけでした。

会場は新宿でしたが、天然顔料の研究会は山梨の韮崎を拠点にされているそうです。

私は絵画のことは詳しくないのですが、日本画は、石などの無機物でつくられる岩絵の具を使って描かれるものだそうです。

ヨーロッパの美術館や絵画などでは油絵が中心だったように思うけれど、日本画については、屏風絵などを見たことがあるくらいで、そもそもあまり肉眼でちゃんと見たことがなかったなぁと思います。

いろんな場所の石の色で描かれている作品があったり、とてもマットで静かな色合いがとても心地良かったりと(油分を感じないので胃もたれしないというか)、日本の色ってこういう色で描かれてきたんだなぁと勉強になりました。

岩を摺って試し描きをさせてもらえるワークショップもあり、ラピスラズリやアズライト、マラカイトの色を摺ってガラスペンや筆で描かせてもらいました。なかには富士山の溶岩の色も。

わたしの落書きしか写真がないのですが、左下のグレーの色が富士山の溶岩の色でした。

岩絵の具は乾くとさらさらとした質感で、ちょっと昔のお菓子のヨーチのようなマットさが綺麗でした。

石、というのは、草木染めの際には、色そのものというよりは、植物の色と繊維の間を取り持ってくれたり、発色を良くしてくれたりと欠かせない存在です。

そうした染めとも違って、こうしてここまでダイレクトな石そのものの色を体験するのは初めてで、有機物と無機物が発する雰囲気の違いを感じたりもしました。

植物は、生きている間も変化し続けているので、染めた色もやっぱり固定して留まる性質ではないと思っているのですが、おそらく石はもっと長いスパンで大地に残っていく。

富士山の神様の、コノハナサクヤヒメと、イワナガヒメのように、植物のいのちの芽吹く美しさと儚さと、いつまでも続く石のいのちと、陰陽のようにどちらも地球の恵みだなぁと感じました。

12月の草木染め

9月からはじまった、今年二期目の「いのちの草木染め基礎講座」。4回連続講座で、初回の枝からはじまり、最後の4回目は根っこの色を染めていきました。

ちょうどこの季節は、地上部が枯れて表には見えなくなるけれど、根っこはしっかり残って次のいのちをまたつないでいく時期。

見えるものが少なくなっても、それ以上に見えないものがあること。そのおかげで今があり支えられているからこそ、また次へ進んでいけること。そんなことを、根っこを染めながら共に感じられたらいいなと思って開催しました。染めるのは西洋茜の根っこです。

枝や花、実とも違う、根っこの力強さ、香り、色の強さとたくましさを五感で感じてくださったかと思います。

根っこは英語にするとルーツ。今いるわたしたちまでの道のり。

ご先祖様ともいえるし、もっと広く日本人として、人間として、地球の生き物として・・定義はいろいろですが、無数の根っこによって、今があるのだと思います。

また、土というのは奥が深くて、善悪もこえて、死んで還るところでもあり、またそこからあらたな生命が生まれる場所でもあり、根っこ同士はみんな土を通してつながっている。

そんなたくさんの可能性を秘めている場所である土に、根っこは根ざしている。

あらためて、根っこの凄さを感じます。

木々は根に支えられているからこそ、太陽にむかって大きく枝を伸ばしてひろがっていける。気づかなくても無数の根によって支えられ生かされていると思うと、なんだか心強く生きていけるような気がします。

そんなお話もしながら、西洋茜の色で、今回はコットンマフラーを染めていただきました。

明見湖も、はすが立ち枯れしている様子がすっかり冬の景色でした。

西洋茜を煮出していくと日本茜とは違ってとても色が濃く出てくれるので、染液の色に皆さん驚かれていました。まるで血のような色の染液ですが、まさに茜は血を綺麗にする(浄血)効能があると言われています。

そうして染めあがった色は、それぞれに美しい根っこの色でした。

染めながら、話題が家族や先祖のしていたことの話になったり、あるいはおいしい根菜の話になったり。色々な根っこによって支えられていると改めて感じました。

こうして、今年は草木染めの講座やワークショップという活動を通してたくさんの方と出会わせていただくことができ、植物のいのちの色を染めることをお伝えできて幸せでした。

また、いつも使わせていただいている明見湖のはす池体験工房の運営のみなさん、そして四季折々に黙って見守ってくれた明見湖にも、心からの感謝を。

そんな2024年の締めくくりの月となりました。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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