藤崎 仁美

2025.02.28

草木とともにあるくらし35

2月の富士吉田

2月のはじめ、雪が少しだけ降りました。今回は幸い雪かきするほどの量でもなかったので、安堵して雪景色を眺めました。

さらさらの雪が一晩中降ったあとの朝は、山の雪化粧がため息がでるほど綺麗です。

全国的には寒波が厳しいと言われたり、雪が多くて大変な地域もあるかと思うのですが、富士北麓では例年に比べると割と暖かいように感じます。降水量も少ないせいか、富士山の雪もいつもより少なくて不思議な気分です。

私が引っ越してきてから一番寒かったのは、2018年頃だったと思います。2月の節分のころ、最低気温がマイナス16℃くらいまで下がった日が数日続いて、最高気温もマイナスで、晴れているのにあちこちが凍って光っていて、異次元の体験でした。

そのときは引っ越してきて3年目で、その寒さと、引っ越してずっと走ってきたのが限界だったのか、大きく体調を崩したのですが。

そのころと比べると、今年はまだマイナス10℃くらいまでしか下がっていないので、やっぱり例年よりは暖かいのだと思います。そう思えるようになっている自分の基準がおかしいような気もしつつ、ある程度慣れてきた証拠かなとも思いました。

とはいえ、まだまだハーブたちにとっては育つことは難しい時期。庭の枯れたままのハーブたちにも雪が積もって寒々しい景色でした。

2月の立春もすぎ、旧暦でも新年が明けたということで、富士吉田と、河口湖と、山中湖の近郊の神社へお参りに行ってきました。

手水舎の龍神さんの手の部分が少し凍って、つららみたいになっているのも、毎年見かける光景です。きりっと冷たい水に触れて、気持ちが引き締まります。

よくよく考えたら、今年は私は本厄だったので、厄払いのご祈祷もしていただきました。あまり気にしすぎてもしょうがないですが、厄年にはお祓いのご祈祷をしてもらうようにしています。今年もこれで安心です。

ふと神社の境内の木々たちが本当に綺麗で、何度も見上げました。

以前、まっすぐに大木が育つのは気がいいところなんですよ、とどなたかに言われたのですが、本当にそうだなと思います。

山中湖の神社では、まだ雪が残っていました。

標高の少し高い山中湖が、富士吉田と河口湖よりも寒いことが実感できました。雪のなかの神社もまた風情があります。とくに狛犬さんに雪がのっているのは可愛かったです。

こうして雪が降ると、身近な景色の見え方が少しだけ違って、新鮮に見えてきます。

先日の雪の日も、砂利の上で雪が少し溶けていってあらわれた模様などが、なんだかユーモラスで新鮮に見えました。

パイルの織物のような立体的なテキスタイルのようにも見えてきます。こんな布があったら触ってみたいです。

そんな雪のころ、今住んでいる家の裏に生えている立派な榧(カヤ)の木をたまたま見上げると、雪の積もる様子が印象的で、目を引きました。

4年前にこのお家に引っ越してきた時、すごく背が高くて立派だなーとびっくりした木。大家さんから、榧(カヤ)の木だよと聞いていました。

雪が葉っぱに積もったことで、普段よりもその葉のかたちや、幹のまわりにあつまっている葉の生え方の様子がよく見えて、個性がより際立って見えました。そのようすを、少し切ない気持ちで見上げていました。

というのも、家の真裏の河川工事が数年ぶりに再開される関係で、この榧の木も伐採されることになったと聞いていたからです。

あらためて、榧という木について調べてみると・・

榧の木は、とてもとてもゆっくりと育つものらしく、45年で成木になる杉の木と比べて、榧の木は直径1mの成木になるのに300年もかかるのだそうです。

榧の木は、一生物と言われるほどに丈夫で質のいい木として、高級な将棋の碁盤や、仏像の彫刻として使われたり、水にも強く腐りにくいということで一生物のまな板や、建築材や風呂桶、船舶にも使われてきたとのこと。

明治時代に伐採が進み、しかも育てるのに300年もかかることもありなかなか植樹も少なく、検索すると今や幻の木と出てきました。縄文時代には、榧の実を食べていたという話もあるそうです。

この裏の榧の木は、いつからここに育っているのか分かりませんが、圧倒的に私よりは先輩で、ずっとこの地で景色を見てきたのだと思います。ちなみに、榧の木の寿命は1000年なのだそうです。

木が好きな個人としては残念だけれど、仕方のないこと。なによりも工事が安全に進むことがきっと優先されることなのだと思います。

むやみに寂しがるよりも、たまたま、私がここへやってきたときには、工事が中断していて、まだこの木がいてくれて。4年も隣で過ごせたことの感謝に目を向けようと思いました。

そして、今ならまだぎりぎり間に合うと思って、大家さんにお願いして、榧の木の下の方の枝葉を少しいただいて、色を染めようと思いました。

私は、草木染めは植物のいのちの色が染まるものだと思って活動しているので、今回は榧の木が生きた証を、色として残そうと思いました。

そして、下の方の榧の枝葉を少し切らせてもらってきました。枝葉には、若い芽もたくさんありました。葉っぱは結構するどく、刺さるとちょっと痛いので、手袋をして収穫しました。

染液をつくっているとすぐに、グレープフルーツのような柑橘系の香りがしてきました。とても清涼感と甘みのある、素敵な香りです。榧の木は香りまで上品で素敵なんだなと思いました。

そうして染液を作っていった後、いよいよ染める段階になると、香りがバニラのような香りになっていました。(家族からも、クッキーみたいなスイーツのような匂いがするねと言われました。)

一般的には榧の木はあまり草木染めに使われてきていないので、特別染まりやすい植物ではないと思いますが、榧のいのちが染まってくれるようにと心を込めて染めていくと、とてもやさしい色に染まってくれました。

絞りで少し柄を入れて染めてみたら、木々の木漏れ日のようでもあり、また木の中を流れる水や、葉を揺らす風のようでもあり、榧の木の見てきた景色のようにも見えます。

榧の木とのささやかな交流を通して、私にとっての草木染めは、今ここで出会えた植物のいのちを色としてよみがえらせたり、色として生きた証を残していくもの。また、その色と過ごすことで植物との交流のよろこびを感じていくものなのだなと、改めて感じさせてもらえた気がします。

草木染めの染まった色もまたいのちで、その色は永遠ではなく、時間とともに自然界へと還っていくもの。でもしばらくの間、身近な暮らしの中で、色や記憶としてわたしたちのいのちを支えてくれるものとなる。そう思って、植物の色を染めています。

榧の木は、とっても素敵な木でした。青空をバックにした立派なすがたも、雪を載せたユニークなすがたも、そして枝葉の香りや染まった色もひとつに、きっと忘れることはないと思います。

そんなことを思った、2月でした。

2月の草木染めワークショップ

1月後半〜2月には、クロモジ染めの単発ワークショップを開催しました。

会場の2月の明見湖は、相変わらず凍っていました。見るからに寒々しいです。

1月末~2月にかけての単発ワークショップでは、河口湖の方からいただいたクロモジの枝を染めていきました。

黒っぽくて、節の少ない、シャープな枝。茶道をされる方だとよくお茶会で使われる楊枝の「黒文字」は、このクロモジでつくられています。

調べてみると、一部の地域では、お正月飾りの餅花の枝として使われたり、山の神様への奉納のための串として使用されたりと、神聖で縁起のいい木とされてきたそうです。

そのため、旧暦の新年も明けて、参加される方にとって今年最初の草木染めとしてもふさわしいのではないかなと思って開催しました。

草木染めをしていると、その植物の香りも感じるものですが、とくにクロモジ染めをしていると、癒しの効能のあるクロモジの香りが部屋中に広がるのが分かります。

それはとてもいい香り。大人にはとくにいい香りに感じるように思います。クロモジの香りには、安眠などの癒し効果があるそうです。

そんなクロモジのやさしい蒸気を浴びながら、クロモジのいのちの色が染まっていくのを共にする時間となりました。

今回は、ご希望の方には輪ゴムで絞りを好きなように入れていただきました。シルクストールを染めていただいたり、コットンハンカチだったり、皆さんそれぞれのクロモジの色が染まってくれました。

無地で染めることも好きですが、こうして柄をつくって染めていく工程を入れると、その日その場で、各々の方が、手を動かしながら絞ってみて、それを染めて、最後に開いたときに思いもかけない柄になっていたりして。

なにかそのときに、手を動かしながらうまれる感性やひらめきだったり、気づきがあったり。また、ほかの方との会話の相乗効果のような化学反応があったりします。

また再現しようと思っても、きっと二度と同じものはできない、そうしたこの日この時だけの産物とも言える時間と出会いが、草木染めワークショップの時間の良さかなと思っています。

今の時期はちょっとまだ寒いですが、色が染まったあとには、必ずデッキへ出て、明見湖を眺めつつ、布を風に当てながら、外光での色を見るようにしています。

湖からの風がふくなか、布が風にそよいで、染めたての色を日に透かして眺めるのはきもちのよいひとときです。

ご自身で染められた布を広げて眺めている参加者の皆さんお一人お一人が私にとってもまぶしく、こうして植物のおかげである出会いに感謝の気持ちになります。

そして、ワークショップの最後には、大抵お茶の時間をとるのですが、今回はクロモジの枝をくださった方が作られたクロモジのお茶を以前いただいていたので、皆さんと一緒に味わいました。

色と、香りと、味と。クロモジの豊かな恵みをたくさん感じていただけていたら幸いです。

こうして2月も、植物からの色を皆さんと分かち合うことができて幸せでした。

参加してくださった皆さん、ありがとうございました。

2月の立春も過ぎて、少しずつ少しずつ、春へと向かっています。

だんだんと春の足音がやってくるのを心待ちにしつつ、この冬を味わっていこうと思います。

<草木染め基礎講座のおしらせ>

4月から「いのちの草木染め 基礎講座(全4回)」3期目を開催します。

ご興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご参加ください。

〇いのちの草木染め 基礎講座

【開催日時】

4月・5月・6月・7月の月に1度開催(日時は相談して決定します。平日・土日可能)

9:30~11:30 / 13:00~15:00 (所要時間は約2時間程度)

・4回連続で参加できる方向けです。

・初心者大歓迎

・遠方の方は、駅までの送迎が可能です(ご相談ください)

【開催場所】

明見湖はす池体験工房 多目的室2

(富士吉田市小明見5丁目4番15号)

【内容】

毎月、テーマごとに違う植物から丁寧に色を染めていきます。

基本的な草木染めを染液のつくりかたから体験していただくので、終了後はご自宅で趣味として基本的な草木染めができるようになります。

なお、会場の明見湖は、かつて富士講の方々が水垢離というお清めの儀式を行っていたとされる場所です。

毎月、季節の移り変わりが感じられる、この静かで美しい水を湛えた場所で、

・日々の積もる思いやストレスなどは一旦水に流して

・自然の要素をひとつに合わせて行う草木染めを通して私たち自身のバランスもととのえて

・植物の叡智や愛を色や香りとして受け取って、エネルギーを補充して日常へ帰るような

こうして回を重ねるにつれて、植物や自然界とも仲良くなっていくような、

セルフケアにもなるような時間となればと思っています。

植物を通して集う人との出会いや、季節の植物の色との一期一会を楽しんでいただけたら嬉しいです。

とくにこの3期開催時期の、4月~7月の季節は、桜や紫陽花、蓮の花など、明見湖が最高に美しい時期です。

植物が好きな方や、植物との新しいかかわりを体験したい方、日々のなかで心身をリセットしたい方、手仕事に興味がある方、遠方の方でも富士山に定期的に通ってリフレッシュしたい方などにおすすめです。

【参加費】各回 5,500円(参加費、材料費、布代、お茶代込)

ご興味のある方は、以下いずれかの方法で、お名前と「参加希望」の旨、ご連絡ください。

質問もお気軽にどうぞ。


●公式LINE
https://lin.ee/vEkK2pc

●InstagramのDMにて
https://www.instagram.com/hitonoi/

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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