藤崎 仁美

2025.12.26

草木とともにあるくらし 45

12月のくらし

いよいよ冬らしくなってきた12月。
藍の種とりをしました。

畑で育ててきた藍は、秋頃に花を咲かせたあと、少しずつ乾燥していきながら、小さな小さな種をつけていきます。
花穂をとるのが早すぎると、まだお花のまま。
反対に遅すぎると、種は土へ落ちてしまうので、意外にも種をとるタイミングは難しいものです。

とある日、畑へ行って藍に近づくと、藍の中からばーっと一斉に、たくさんのすずめが飛び立っていきました。
どうやらすずめが種を食べにきているみたい。
調べてみると、すずめは小さくて食べやすい種子を好むそうです。
藍の種はとても小さいうえに、のびのび育った藍はきっと栄養満点で美味しいのでしょう。
この時期、藍の種は貴重なごちそうなのかもしれません。

すずめが食べるのもかまわないけれど、まったく種とりができなくなるのも困るので、早い段階で一部の藍は庭に移動しました。そして藍から種のついた花穂を収穫しました。中身を確認したところ、種はある程度は確保できたので、ひと安心。
また来年の春になったら、種まきをしようと思います。

そうして始まった12月は、すっかり気温が下がり、寒くなりました。
朝晩には、気温が氷点下まで下がる日も増えてきたので、なにか暖かい飲み物を飲みたくなってきます。
ちょうど家にりんごがあったので、思い立ってホットアップルサイダーをつくってみました。
りんごジュースに、切ったりんごとみかん、生姜とクローブ、シナモンスティックとシナモンパウダーを加えてコトコト煮込みます。

りんごジュースを温めるだけでもいいけれど、生姜やシナモン、クローブは体をとても温めてくれるので、全体的に風邪予防にもなりそうです。
ただ甘いだけではなく、スパイスが香るところが大人には合う感じ。
寒い日にはより美味しく感じます。

後日、まだりんごがあったので、今度はカルダモンも加えて作ってみましたが、これも美味しかったです。
さらに、次にはみかんではなく柚子でも作ってみました。
煮ている間に柚子の酸味と存在感が強くなり、ちょっと飲みにくさを感じます。そのため、みかんやオレンジの方が合うのかもしれないな、とか、柚子は皮だけにするとか、果肉は少しでいいのかもしれない、などと思いました。

もともとホットアップルサイダーはNYのクリスマスマーケットなどでおなじみのドリンクなのだそうです。
NYもとても寒いからこそ、こうしたドリンクが人気なのだろうなとぼんやり思いつつ、富士山のふもとで飲むホットアップルサイダーも、良いものだなとしみじみしました。

冬にぴったりなので、すごく寒い日にはまた作ってみようと思います。

12月の草木染め

12月初旬には、富士吉田の古民家のお宿のWRB Fujiさんにて、宿泊者向けの草木染めワークショップを開催させていただきました。

WRB Fujiさんは富士山駅の近くにある、日本らしさを感じられるような古民家の一棟貸しのお宿です。昔に使用されていた藍甕が今も保存されていたり、室内のあしらいにも日本文化を感じられるような素敵なお宿をされていらっしゃいます。その宿泊者向けのアクティビティのひとつとして、草木染めワークショップを選んでいただきました。

今回は、パリからお越しのフランス人のお客様と、オーナーさんのお知り合いで近隣にお住まいの日本人の方、合計お二人のご参加でした。

私はもともと大学でフランス語やフランス文化を専攻し、当時はパリに半年ほど留学していました。
一部フランス語を交えながら、英語でも、この地域の染め織りや草木染めについてのお話をさせていただきました。

『あなたの富士山を染める』というテーマで、日本の『見立て』の文化にならい、一枚の布を富士山に見立てて自由に染めていただきました。

今回用意した植物は、富士のさくらんぼの桜の枝。
優しい色合いで、大きめのハンカチを染めていきます。

インスピレーションを大切に、それぞれが見て感じた富士山をイメージしながら染めていただくと、布はどれも美しい色に染めあがりました。

このワークショップ中は、桜の香りが漂う中で、皆さんとさまざまなお話をすることもでき、穏やかな時間となりました。
出会えてよかったと喜んでいただけたことも、嬉しかったです。
草木染めの色も喜んでいただき、帰国したらご家族へのクリスマスプレゼントにしてくださると聞いて、とても心が温かくなりました。

自分が旅をするときもそうですが、旅先でのローカルな人との出会いは貴重なものだと感じました。

また、このワークショップは滞在場所へ私が赴くため、移動していただく必要がなく、参加していただきやすいのではないかと思います。
今回、こうして講師をさせていただき、富士北麓の自然の恵みや土地が育んできた文化、植物のもつ色の美しさ、自分で染める喜びをお伝えできたことは、日本語でも外国語でも、大きな喜びだなぁと感じました。

また、その体験や出会いを通して、心がリラックスしたり、何かを感じたりする時間を提供できることは、私にとって幸せなことだとも思っています。
植物や人との出会い、そして新しい自分との出会いが生まれる、そんな時間となれば嬉しいです。

英語でのワークショップは初めてだったので、当日までドキドキしながら準備をしていました。
語学面では至らないところもまだあったかと思いますが、またひとつ小さな挑戦をさせていただくことができ、緊張はありつつも、喜びが広がるものだなと思います。

今後も英語の勉強は続けながら、来年もこちらの宿泊者向けのワークショップは随時募集していく予定です。
国内・世界からお越しの方と、こうして草木染めの時間をご一緒できることを楽しみにしています。

あらためて、オーナーさん、参加してくださった皆さんに、心から感謝しています。

今月は、いつもの明見湖でも、いのちの草木染めの講座を無事開催することができました。

12月半ばになると、湖の一部がすでに凍っていたり、午前だと立ち枯れしている蓮の上にも霜がおりて白くなっていたりと、冬らしい景色が広がっています。
9月からはじまった基礎講座は、12月で最終回の4回目を迎えました。
この最後の4回目では根っこの色を染めます。

「茜色の夕日」という言葉がありますが、その茜色は茜の根っこを染めた色です。
基礎講座では西洋茜の根っこの色で、コットンマフラーを染めていただきました。

根っこは植物の色の中でも特に力強く、大地とのつながりの強さを感じます。
茜の土っぽい香りも感じていただきながら、また人類と茜との古くからのかかわりなどお話し、それぞれ皆さんの感じるままに染めていただきました。

基礎講座では『色そのものを味わうこと』を大切にして開催しています。
最初から柄をつくると、色そのものよりもデザインや柄にどうしても意識が持っていかれがちになります。
そのため、まずは植物の個性や本質的な色を、落ち着いて味わっていただけたらと思っています。

柄をつくる道具は使わずに開催していますが、グラデーションにしていただくことは自由としているので、皆さんそれぞれに違った素敵な染めあがりとなりました。

講座やワークショップをしていると、参加してくださった方から、「あの植物を染めてから、道ですごく気になるようになりました」「よく見たら、家で育っていました」といった声をいただくことがよくあります。

一度、草木染めをした植物は、まるで知り合いのように、どこか見知った感じが残ります。
気づく人には静かに、穏やかに、風にふかれてこちらへ手を振っているかのような親しみ深さで、その存在を教えてくれたりするように思うのです。

植物との色の体験を通して、自然界とわたしたちがひとつながりに在ることへ、意識が向いてくるのではないかなと思っています。

また講座中、植物のまわりに集い、五感で感じ、生きた色を染め、お話をして、また日常へと帰っていく…その一期一会もとても大切な時間だなぁと感じます。

皆さんそれぞれの活動のお話も伺ったり、その日の出会いで会話が紡がれていったり、新しい発見があったり。すべての時間は大切な宝物のようなものだと思っています。

お忙しい中、富士吉田市内や都留市 、山梨市や北杜市、遠くは三島市や愛知県から、4回続けて通ってくださったこと、植物を通して素敵な皆さんとのご縁をいただけたことが本当に嬉しかったです。

ご参加くださった皆さん、本当にありがとうございました。

そして、12月は応用講座の最終回でもありました。

以前基礎講座を受けてくださった方に向けた応用講座は、『いろかたち』を染めることをテーマにしています。
最終回となる4回目は、針と糸で柄をつくり、縫い絞りをして染めることを体験していただきました。

今回染めていったのは、枇杷(びわ)の葉っぱです。
枇杷の葉の温湿布が体に良いと聞いたことがありますが、調べてみるとその歴史はとても古く、仏教医学では3000年前から治療に使われてきたのだそうです。

枇杷の葉茶のような色になるのかなと色を想像しながら、染液の準備をしている間に柄を作っていきます。

いろかたちを染めるのは、基礎講座に比べると、よりそれぞれの個性が表れたり、デザインに近い表現になってきます。
凝るのもよし、即興的に思い浮かぶものを染めるのもよし。
シンプルな道具や手法が重なりあうことで、無限に可能性が広がっていくのも、手仕事の面白さのひとつです。

針での手縫いは少し手間がかかりますが、自分で描いた線をそのまま染めていけるのは、縫い絞りの魅力的なところです。

気づくと枇杷の葉からは、美しい色が生まれていました。
草木染めでは、色を布としっかり結びつけ、発色をよくするために鉱物の力を使います。
今回は応用講座なので、複数の鉱物の中から、お好きなものを選んでいただきました。

同じ枇杷の液でも、染めあがりの色味には個性の違いが出ていて、どの色もとてもきれいでした。

ひとつの葉っぱから、媒染の違いでこうした違ったニュアンスがあらわれるのも、草木染めの魅力です。

今回は最終回なので、縫い絞りだけでなく、これまでに使った道具や手法も自由に使っていただきました。
縫い絞りに加えて、板締めや輪ゴム絞りを合わせて染めてくださる方もいらっしゃいました。

ユニークで素敵な作品が、たくさん染めあがりました。

ひとつとして同じものはなく、当日のみなさんの手仕事に、その人らしさが、植物の色とともに布に息づいているようでした。

この応用講座も4回で構成していたため、12月で一区切りとなりました。

基礎講座に続いて、こうして参加してくださった皆さんと毎月お会いできたことが嬉しい日々でした。
とくに今年は、小学生や中学生のお子さんと一緒に、親子でご参加くださった方もいらっしゃり、お子さんたちの自由な発想や感想が面白く、嬉しい時間となりました。

応用講座も、皆さんそれぞれご活動やお仕事がある中で、富士吉田市内や河口湖、山中湖、甲府、富士宮、神奈川からご参加いただき、本当に感謝でいっぱいです。
心から、ありがとうございました。

1月から3月にかけて、富士吉田はかなり冷え込み、道路が凍ったり雪も降ったりするため、冬季は講座を一旦お休みにしています。
基礎講座・応用講座ともに、次回は来年4月スタートを予定しています。

それまで、春を楽しみにしながら、冬だからこそできることを、少しずつやっていこうと思います。

年末に近づき、基礎講座も、応用講座も、一日、一日と、おさめられていきました。

皆さんと「よいお年を」「ありがとうございました」と笑顔で今年を締めくくっていく時間は、感謝や染めあがった達成感、そしてひとつの区切りを迎える少しの寂しさもあります。

とくに日本では、年末と新年の間には、地続きというよりもなにかはっきりと区切りがあるように感じます。
年末に年が暮れて美しく終わり、年が明けると次元がひとつ上がるような、新旧の感覚が強いような気がします。

この1年の恵みを振り返り、実感して、それもおさめて、新年にはすっきり新鮮にはじまりを迎えていけるように、2025年の残りの日々をしみじみと過ごしています。

今年出会ってくださったたくさんの方々と、この場で2025年の草木とのくらしのことばたちを読んでくださった方々に、あらためて感謝を。
ありがとうございました。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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