FUJIYOSHIDA DIARY MAGAZINE

土地・環境

藤崎 仁美

2023.03.26

草木とともにあるくらし12

3月の富士吉田

いつもは春がやってくるのが一足遅い富士北麓ですが、今年の3月はすっかり春らしくなってきました。

毎年ふきが生えている場所に、ひとつ、またひとつと、ふきのとうが顔を出しはじめていて、春の挨拶のようです。

触れると、眠気が覚めるような、ふきのとうのスッとした香りがします。

そのいくつかを摘み、いつも作っている手前味噌と一緒に、ふきのとう味噌をつくりました。

ごはんに合う春の味です。

庭では、チューリップの芽が出てきました。

昨年も咲いていたチューリップ。球根を掘り起こさずにそのままにしていたら、また芽吹いてくれました。

チューリップの葉っぱは、流線形のかたちも、端にほんのりと赤色に色づいているのも、とても美しいなと思います。今から、花が咲くのが楽しみです。

ほかにも、庭で冬に枯れてしまっていたハーブたちも、新しい芽を出して息を吹き返していたり。着々と植物たちが目覚めてきていて、嬉しくなります。

昨年はじめて植えた、グリークマウンテンも息を吹き返していました。ふわふわしたうぶ毛のあるやわらかな葉っぱがかわいいハーブです。

なんとか冬を越していたソープワートも、より一層元気になって、葉を増やしていました。

ちなみにこのハーブは、葉っぱが石けんのかわりに使えるという植物です。

そんな芽吹きの春。

3月は私にとっても、ひとつの区切りでした。

じつは昨年の10月から3月までの半年間、山梨県の高等技術専門校の服飾科へ半年通っていました。縫製の技術を学ぶ学校です。

山梨に来てから、家庭用のミシンを買って持ってはいたものの、まっすぐ縫おうと思ってもゆがんだりして難しく感じるような、初心者レベルの状態でした。

富士吉田からこの学校に通うには少々長い運転が必要で、毎日朝早いのが少し大変だったのですが、普段だと知り合えないような、山梨のいろんな場所から集った楽しい仲間と出会うこともできたのは、とても大きなことでした。

学校では先生からたくさんの縫い方を教わったり、課題を作成したり。

ちょっと複雑な小物などで練習したのち、製図の仕方も学び、自分の寸法で型紙をつくって、自分の選んだ布でシャツブラウス、裏地つきのスカート・ジャケット・パンツをつくっていきました。

少しご紹介すると…

自分の寸法でつくった、シャツブラウス。後ろのヨークと袖口にギャザーを入れました。

これはハタフェスに出店されていた遠州織物〈古橋織布〉さんの綿の生地。なんともいえずいい生地で、もっと買いたいくらいでしたが、布はオンラインなどでは販売されていないので、購入できる機会は貴重です。また来年もハタフェスに出てほしいと密かに願っています。

これは、裏地つきのタイトスカート。

これも、ハタフェスに出店されていた、浜松の〈福田織物〉さんの細うねのコーデュロイ生地。コーデュロイは、毛の向きなど気を付けないといけなかったり、アイロンで毛がつぶれてしまったりするので、初心者のわたしにはちょっと難しかったです。裏地はキュプラにしました。

このスカートを作っていたときは、なぜかアイロンで汚れてしまって汚れを落とすのに難儀したり、ファスナーを付ける位置を間違えたせいで何度もやり直したりと、トラブルが続いたので、ちょっと大変な思い出になりました。

これはリネンのノーカラージャケットとパンツのセットアップ。

〈生地の森〉というネットショップの生地屋さんで購入した、リネンのブロークンツイルの生地でつくりました。裏地はキュプラにしました。

ただのツイルと違って、ブロークンツイルは、見たときに規則性が分かりにくく、表情豊かな布だったのが気に入りました。

作り立てでも、なんとなくアンティークのような雰囲気を醸し出している素敵な布でした。

先生に教えてもらいながらやっと、これらの服をつくることができました。

私は背が小さいので、サイズ展開をしていないブランドの服はサイズが合わなかったりして、なかなか普段はしっくりくる服がないのですが、苦労しながらも自分の寸法でつくった服は、本当にちょうどよくぴったりでした。

また、洋裁を学び始めて、1ミリ単位で完成度が大きく変わってきてしまうこと、スマホの操作みたいに、なんとなく触っていたら直感で分かるような現代のサービスの感じとは違って、洋裁は手指の技術をダイレクトに要する、緻密でごまかしのきかないシビアな技術の世界なのだと思い知りました。

縫っていると、指の添え方ひとつで、仕上がりが変わってくることにも薄々気づいてきました。なんて、細かい技術と気配りがいるのでしょうか…。

そしてこんなに大変な作業を経たものが、なぜあんなに安く売られているのか…といろんなことを考える機会にもなりました。

そして服を作る側になってみて、扱いやすい生地とそうでない生地があることや、布の幅が狭いと必要になる布の量が倍になってしまったり、柄合わせをすると布が無駄になりやすいこと、大きな柄は使いにくいことなど…知識では知っていたけど、作る人にとっては死活問題なことが以前よりも感じられて、なんでも自分事になると、見え方も変わるのだなぁと、自分の変化にも驚きました。

私の場合は、素材の手触りや、布の表情や、光の受け方や吸収の仕方、そしてとくに色が大切な要素でした。そのため、基本的には綿や麻などの天然繊維の無地の布で、風合いや表情がいい布を探し求めていました。

布探しの中で出会った、浜松・遠州織物の〈古橋織布〉さんの、薄い綿の生地はとくにお気に入りになりました。

なんともいえず風合いがよく、ほどよく光を吸収しているような布で、なめらかだけどマットでさらっとした感じ。そしてとてもいい色でした。

縫っている間も、好きな布だとやる気が出るし、素敵な布をつくってくれてありがとう、と感謝の念さえ湧いてきます。

学校は一旦終わりですが、縫うのはまだまだ練習中なので、自分でいろいろと試作しつつ、草木染めのものを縫うところからつくっていけたらいいなと思っています。

そんなわたしの卒業の3月でした。

3月の草木染め

今月は、春もやってきていて、卒業や入学のシーズンでもあり、なんだかおめでたい気持ちになる季節。

まだ桃や桜を染める準備はちょっとできていないけれど、赤みのある色を染めてみたいと思ったので、西洋茜で草木染めすることにしました。染めるのは、綿の風呂敷です。

大判の風呂敷は、ちょっと旅行に行ったりするときや、お花見をするときなどにも良さそうです。

家に西洋茜の粉末があったので、今回はこれで染めることにしました。

粉末のものを煮出すときに濾したいので、あらかじめ晒し布を縫い合わせたところに茜を入れて、煮出していきました。

以前、ウールのストールを同じ西洋茜で染めたのですが、とても濃いオレンジと赤の中間のような、朱色になりました。

あの色も好きでしたが、秋冬に合うような色だったので、今回は、3月の春らしい色になってくれたらいいなと思って、あまり長く染めないようにしてみました。

真っ白な綿の風呂敷を、染液につけていきます。

早めに染液からは引き出して、媒染をして、色を定めていきます。

そして乾いたら、こんな色になってくれました。

やわらかい、春がきたよろこびのような、かわいいピンク色になりました。

この風呂敷に包んで、お花見や小旅行にでも行きたい気分になりました。

今年も、草木たちを感じる暮らしを楽しんでいこうと思います。

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藤崎 仁美

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。そして、2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
現在は、染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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