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藤崎 仁美

2021.10.23

ハタオリのあるくらし 04「ハタオリの現場」



私が働く〈宮下織物株式会社〉の織物工場では、織物がつくられる工程でも後半の「よこ糸を入れて織る」という部分を担当しています。

今回は、私のハタオリの日常をお伝えします。


基本的には注文を受けてから織りますが、定番商品の柄を在庫用に織ることもあります。
新しく柄をつくるときの試作段階のものや、お客様から依頼されたオリジナルオーダー柄の試作などを試し織りすることもあります。
同じ柄を何日も、何週間も続けて織ることもあれば、一日のなかで何度も何度も柄を変えて試し織りをすることもあります。
主に私がしていることは、基本的には、以下の3つです。


【①織るための準備】

・糸の在庫確認
織るために必要な糸が足りるかどうか、工場の糸の在庫を確認して準備したり、足りなければ会社から注文してもらいます。

・デザインの準備
織るデータや紋紙を準備します。

・糸の下準備
染色屋さんが染めた「かせ糸」が届いたら、工場内で干して、ボビンに巻いて準備します。

これは「紋紙」です。

私たちの扱うジャカード織物では、経糸を一本一本操って複雑な模様を織り上げるのですが、デザインが織られるために、織機のどの針を上げ下げするのかの指示をするために穴があけられている紙のことを紋紙といいます。この紋紙を織機の上にセットすることで、柄を織ることができます。

昔から、織るための指示を出すデータとして紋紙が使われてきましたが、時代が進むにつれて、データをそのままUSBに入れてデータ入力できる、電子ジャカードというものができ、紋紙がなくても柄を織ることができるようになりました。

私たちの工場でも、電子ジャカードの織機はありますが、昔と同じ紋紙を使用する古い織機もあるので、その織機を使うときには今も紋紙を使っています。

これは2階でかせ糸を干しているところです。

かせ糸を干したあと、ボビンに巻きます。

他にも、最初から巻いてある糸を使って織ることもあったり、フィルムのようなラメ糸を織ることもあります。

【②織るための機械の調整】
・柄のデータを織機に入力
電子データを使う織機と、昔と同じ紋紙を使う織機があります。
織る柄や使う糸によって、織機の歯車を変える必要があるので、工場の記録を参照しながら工具で歯車を交換します。

ボビンに巻いて準備しておいた、よこ糸を織機にセットして、複数の糸がどの順番で入るのかを正しく設定していきます。

そして実際に、糸をつかんで、もっていき、はなす、ガシャンと織る、という動作がミスなくスムーズにできるように、糸を切るカッターや、糸をはなすタイミングなどいろいろな部品を調整します。

ここの調整がうまくできていないと、あっというまに傷だらけの織物になってしまうので、とても神経をつかうところです。

【③見回り&よこ糸の補充&トラブル対処】
調整ができたら、織機を自動で回し始めます。
ボビンのよこ糸を使い終わると、織機が止まるので、その都度新しい糸に替えます。

また、湿度の変化だったり、織機の不調だったり、これまでの工程で糸が弱ったりしていることもあり、いつ何時でも不可抗力で問題が起こり得るので、異変がないか、たて糸が切れたりしていないか、織っている面に傷が出ていないかなどを見回ります。

織機には異変を知らせるセンサーがありますが、糸がからまってセンサーに反応しないようなトラブルもあったり、センサーがついて織機が止まっても、問題の箇所がどこにあるかは人が調べないとわかりません。

なので、問題に対処するときは、まるで探偵かのように原因を調べて、再発しないように対処します。

織機も、つねに動き続けていると、部品はつねに消耗していっているようなものなので、定期的に油をさしてあげないと故障してしまいます。

ねじがゆるんでくることもあるし、掃除が必要なこともあったりします。

とくに私たちが織っている糸はとても細く繊細で、また、織っている織物の種類としても、傷が出たらものすごく目立ってしまうので、毎日、油断ができないです。

毎日新人。

私が働き始めた頃、地域のハタヤのおじさんたちから、「毎日新人だ」という言葉をよく聞いていました。
最初は謙遜しているのかと思いましたが、今はその意味がわかる気がしています。

機械で機織りをしていると言うと、全自動で狂いがなく大量生産できるイメージがある人もいるかもしれませんが、わたしのいる工場では、人がいないと成り立ちません。たくさん手間もかかります。

その日の気温、湿度の変化だけでも、織機は異変を感じて止まったり、たて糸が切れたり。切れた糸を繋ぐのは人の手です。

経験と感覚を総動員して、数ミリ単位の微調整を人間がしながら、目を配り、ずっとそばで見守りながら、だれかのもとへいい織物を届けるべく、仕事をしています。

糸のテンションの調節の具合が少し変わるだけでも、織りあがった生地の見え方に差がでる。機械のたくさんのねじのうち、一つゆるむだけでも大きな影響力をもつ。

ぱっと見ると昨日と同じようでも、毎日毎日がその日にしかない状況下で、いま織っているものをまっさらな目で見つめ、その状態を把握していることがすごく大事なのだと知りました。毎日新人、というのはこのことだったのかな、と思っています。

その日々の違いを感じ取って、人間がそのブレを微調整しながら、理想の状態に仕上げて、待っている人のもとへ届けられるようにすること。

それが、ハタオリの現場の仕事なのかなと思っています。



すべてが大事

このお仕事についてから、今まで以上に、すべての工程が等しく重要だと思うようになりました。

たとえば、織機のトラブルに対処するよりは、糸を巻くのは簡単なように感じますが、巻くのが下手だと、織ったときにトラブルになります。

なので、糸を干すのも糸を傷つけないように(ささくれた手で触るだけで傷ついてしまいます)、糸を巻くのも静電気で糸が暴れないように、織るときはもちろんきれいに織れるように、織った織物を巻き取るときもきれいに巻いているように、すべての工程が同じくらいの重さで大事で、すべてに意識が行き届いていることが大事だと実感するようになりました。なので、簡単にみえる工程も気を使います。

むずかしいなぁと思うことは今もたくさんあります。

それでも、ハタオリの現場では、糸だったものが、ひと織り、ひと織り、布になっていくところを目の前で実感できます。

〈宮下織物〉ではとくに、舞台衣装になるような織物が多いので、あざやかな糸だったり、華やかな柄であることが多いので、うつくしいものが生まれる瞬間に立ち会える喜びがあります。

織物の工程で一番、出来上がっていく楽しみが見られる場所なのではないかと思っています。
少しでも、ハタオリの工場でのお仕事の雰囲気が伝わっていたら嬉しいです。

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藤崎 仁美

宮下織物(株)の機織り職人

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのためはじめて富士吉田へ訪れる。 卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
そして、2015年、〈宮下織物(株)〉へ入社するために富士吉田市へ移住。
未経験から、ジャカード織物の機織り職人として働き始め、2021年で6年目。
現在は、休日に染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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