FUJIYOSHIDA DIARY MAGAZINE

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藤崎 仁美

2024.03.05

草木とともにあるくらし23

旅の話と、2月の富士吉田


パリでも草木染め

いきなりちょっと遡りますが、1月の後半にパリへ一人旅をしました。

私は大学生の頃、フランス学科専攻だったこともあり、2011年にパリに半年間留学していました。それから月日が経ち13年が過ぎていましたが、ひょんなことから「旅がしたい」という気持ちにスイッチが入り、行くことにしました。

今回は観光名所に行く旅ではなく、今自分が興味のある場所や、素敵だと思う人に会いに行く旅に。同時に、かつての自分と再会するような旅でもあり、そこから今に至るまでを振り返ることにもなり、他でもない自分自身との旅でもありました。

海外への一人旅は、日常のルーティンのなかで忘れてしまう自分の臨機応変さだったり、環境が変わると自分自身から引き出されるものが変わっていくことだったり、思っているよりも自分が強いことも、そして支えてくれている大切な人たちがいることも、意識するようになります。

日本人として無自覚のうちにはまっている型から、時にするりと抜け出して、全然価値観の違うところへ行くと、自分の本質的なものを感じたり、気持ちがすごく楽になることもあります。

一人旅は一見寂しいようだけれど、一人だからこそ思ってもみなかった人とお話することになったり、自分の気持ちの機微を無視せずにいられるから、大人になってから、たまにする一人旅はいいものだと思うようになりました。

現地では、草木染め、お花、布関係というテーマで、ワークショップに参加したり、レッスンを受けてみたり、行きたい美術館へ行ったり。そしてパリに住むお友達にも会うことができました。どの体験も、凝り固まっていた私の頭をやわらかくしてくれるような、新鮮で喜び溢れる体験になりました。

そのなかの一つとして、1月中旬~下旬のパリではミモザの花がちょうど並び始めたところで、「シャンペトルブーケ」のフラワーレッスンを受けました。シャンペトルブーケとは、田舎風ということで、畑でそのまま摘んできたようなブーケです。それを日本では「パリスタイル」と呼ぶこともあります。

お花の曲線や自然な造形を矯正するのではなく、自然に活かしてつくるブーケ。コンセプトがそもそも好きです。

パリに到着した翌日、日本人の先生からレッスンを受けて制作し、それからはお部屋に飾っていました。でも私の荷物には入れられるスペースがないので、持って帰れないと判断。滞在先にはキッチンがあったので、持ち帰るかわりに、現地でミモザを煮出して布を染めてみることにしました。

実はもともと出国前から、パリで草木染めがしたいと密かに思っていたので、布はパリで購入することにして、その布を裁断する裁ちばさみも、媒染するための焼きみょうばんもしっかり持参していました。準備はばっちりです。

布探しも、今回パリでやってみたかったことの一つでした。

モンマルトルという地区に生地屋さんが集まっているので、そこへ行ってシルクやリネンの布を購入しました。

別々のお店で購入したシルクの布たち。どちらもとっても綺麗です。

この布は、生地屋のおじさんに「草木染めをするのでシルクを探している」と伝えたらおすすめしてくれた布。ちょうどセール中でお買い得でした。とても美しい生地です。

隣の生地屋さんでも、ブライダル生地の切り売りコーナーでシルクを購入しました。

まばゆいヴェールのかかったような光沢が非常に美しい、紬みたいな生地。これもすごくお買い得でした。草木染めのためにこの2つの布を準備しました。

いざ、草木染めです。

キッチンでお鍋にミモザを切って入れていき、コトコト煮出していきます。

私の滞在したゲストハウスにはキッチン用品が一揃いあったので、お鍋が使えて良かったです。安全な媒染剤などを使う分には、お料理の延長のように草木染めができます。

そして煮出したところに、シルクの布を浸けていきます。どんな色になってくれるのでしょう。ゆらゆらと動かしながら、しばし待ちます。

焼きみょうばんもしっかり荷物に入れていたので、媒染も出来ました。ここで発色、そして色が定着してくれます。

布を乾かしたら、こんな色になりました。淡いベージュというか、黄色とクリーム色の間のような、ふんわり優しい色になりました。重ねて何度か染めたら、もう少し濃くなったかもしれませんが、今回はここまで。

やってみたいと思ったこともでき、たくさんの嬉しい経験もでき、無事安全に旅を終えることができました。



2月の富士吉田

そして富士吉田に帰ってきたら数日後には雪が降り、今度は日本の冬の景色を楽しむことができました。

雪は1日ずっと降り続けて、30㎝くらい積もりました。

音もなく、ただただしんしんと雪が降るなかに立ち尽くすと、真空状態にいるような、不思議な気持ちになります。

雪の降るときにものすごく静けさがあるのは、鳥も木々も静まり返るからなのか、それとも雪が音を吸収でもするのでしょうか。

自分の雪かきの音と、自分の息遣いだけが聞こえる、冬にしか感じられない独特な空気。

私は雪かきがあまり上手でなく、体が小さいからか大きいスコップがうまく使えなくて、毎年どうやってどっちに向かって雪を移動しようかなども迷って、なかなか慣れないので終わるとどっと疲れてしまう。体もあちこち痛くなるのですが、降ったばかりの山の雪景色はため息が出るほどきれいで、疲れも一瞬で吹き飛びます。

雪かきしながら見る雪は真っ白で軽くて、空からこんもりとこんなにも降ってきたことにも驚きがあったり。雪につく動物の足跡はなんだか正直で、愛おしくなったり。

翌日に晴れてやわらかくなって変化していく雪も、きらきら輝く雪解け水も、冬ならではの自然が見せてくれる美しさで、やっぱり綺麗だなぁと思いました。

でも今回の雪は、例年と比べるといくらか易しい雪でした。

私にとっての富士吉田の2月というのは、いくらこの地域が好きでもちょっと耐えがたい、寒すぎて身の危険を感じる時期。車の運転も凍結にどきどきする、美しいけど危険な季節…という印象がどうしてもあるのですが、今年の2月はソフトでマイルドで、拍子抜けしている感覚もあります。

春一番の風まで吹いたそうで、このまま春になるのか…?にわかには信じがたいですが、毎年4月まで雪が降るので、まだまだ油断はできません。

とはいえ寒いのは苦手なので、春らしい日が増えてきて心も軽く嬉しい気分でいます。

エネルギーが渦巻く感度の高いパリと、自然の静けさのある富士吉田と。

両方を体験できることで、どちらの良さも分かる。そんなことを思いました。



2月の草木染め

そんな2月。地味に忙しい気持ちでいました。というのは、3月の頭に、名古屋近郊のマルシェに出店することになったので、旅の余韻も覚めやらぬうちから2月はいろいろと制作をしていたのです。

マルシェだから、誰でも草木の色を手に取ってもらいやすいもの、暮らしのなかで簡単に草木の色を招いてもらいやすいものを持っていこう、と思っていました。

形を考えて草木で布を染めて、それから裁断してちくちくミシンで縫って、小物をつくってみました。

オーガニックコットンのネル生地を、セイタカアワダチソウや、さくらんぼの枝や玉ねぎの皮で染めて、白い布とも縫い合わせて八角形のふんわりしたコースターをつくったり、

パリで購入した白いリネンの布を、「こんな風にしよう」と考えてからさくらんぼの枝で染めて、それから裁断してミシンで縫って、ワンハンドルバッグをつくってみたり。

てのひらにおさまるポーチをつくってみたり。

リネンストールを染めたり。

いろいろと制作していました。マルシェで喜んでいただけるかな?とどきどきしますが、あんまり力まず、楽しもうと思います。

こうして私の2月は、旅の余韻と創作に向かうような、楽しいひと月になりました。

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藤崎 仁美

1989年名古屋市生まれ。大学ではフランス語を専攻。大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務を経て、社内異動によりNX(3DCAD)の講師を務める。
そのころ、仕事のかたわらで週末京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。そして、2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
現在は、染料植物を育てて草木染めをしたり、植物と親しむ暮らしを楽しんでいる。

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