藤崎 仁美

2024.11.29

草木とともにあるくらし32



11月の富士吉田

11月に入り、いよいよ秋らしくなってきました。

例年に比べると、今年の11月は随分暖かったようで、富士山になかなか雪が降らないことが話題になっていましたが、植物たちは皆それぞれに秋の支度をしていました。

育てている畑の藍たちは、花が咲いたあとに種をつけはじめました。穂先が茶色になってきたら、中にはゴマみたいに小さな黒い種ができていきます。

藍は1年草なので、秋にたねとりをして、また来年春になったらたねまきすることで命が繋がれていきます。藍のたねとりは毎年の大切な行事となっています。

畑に今年の春に植えたフェンネルも、お花を咲かせようとしていました。のびやかでかわいいです。

植物たちが少しずつ変化するなかでも、富士山はしばらく雪が降らないままでしたが、11月中旬に入るとようやく雪がつもり、秋冬の富士山の姿になっていました。

こうして冠雪がみられると、季節がいよいよ冬に切り替わっていくのを実感します。

木々も少しずつ紅葉していきました。黄色やオレンジ、色がたくさん重なり合って調和している様子がきれいで、うっとりします。

用事のついでに寄った山中湖図書館の近くで散策路を散歩していたら、赤い実をいくつも見つけました。

調べてみると、ツルシキミというもののようです。

これは、メギという植物だそうです。

実が赤いのは、鳥が見つけやすくするため、と聞いたことがあります。

ちょうど鳥もいました。木の枝をコツコツとつついて虫を探しているようでした。

こうした鳥が実を食べるのでしょう。

これは、調べてみたところ、マムシグサというそうです。

かたちはさまざまだけど、みな実は真っ赤でした。

そんな実りの季節、今月の草木染めの講座やワークショップを開催しました。




11月の草木染め

10月から4回連続で開催している基礎講座、今月は3回目の講座を開催しました。

初回が「枝」、2回目が「花」と続いて、今回は「実」ということでくちなしの実を染めていただきました。

くちなしの実も、見た目は同じく赤い実です。乾燥させた実は漢方としても使われています。暮らしでは、お正月の栗きんとんの色として身近かもしれません。

くちなしは、実は赤いけれど、染まる色は赤ではありません。さて、どんな色に染まるでしょうか。

ちょうど今は実りの季節。今年も、もうあとすこしでしめくくりです。

秋は自然界では実が実るように、人の暮らしでも、毎日の積み重ねや日々の生きた形跡が、なにかしらの実りや結果としてあらわれてくる時期のように感じます。

なんてことない日々の想いや、ちょっとした習慣や取り組みも、振り返ってみればたしかに息づいて、なにかしらの形を成している。

よかったこともそうでなかったものも、一旦は目にして受け入れて、もう来年に持ち越す必要のないものは、落ち葉と一緒に手放したり水に流して整理していけばいいのだと思います。秋は、1年のサイクルを終えるために大切な、収穫と整理の季節です。

そんな実りのエネルギーをもつ、くちなしの色をみなさんに染めていただきました。

秋の空と木々の色に映える、きもちのよい色に染まりました。地紋のあるシルクコットンの布がくちなしの色に輝きます。皆さんそれぞれに、素敵に染めてくださいました。

基礎講座は、来月で4回目となり、一旦は最終回を迎えます。最後まで楽しんでいただけたらと願っています。

また、11月には秋の色を染める単発ワークショップも開催しました。こちらは初めての方も、経験者の方も参加していただけるもので、季節の植物があるときなどに開催しています。

今回の秋の色は、ちょうど咲いているコセンダングサからもらうことにしました。

雑草扱いされがちですが、実は薬草でもあるコセンダングサは、素敵な色を見せてくれます。

摘んできたばかりのコセンダングサを煮出していき、染めていくと、秋らしいいい色に染まってくれました。

リネンは山吹色のような色に、コットンはやさしさのあるほっこりした色に。

また、基礎講座を修了された経験者の方には、持ち込み可とさせていただいているのですが、この日に参加してくださった方には、お持ちのシルクの布を染めていただきました。

鉱物の種類を変えることで、2色に染められることも体験していただきました。

雑草扱いされがちなコセンダングサは、こうして秋らしく可愛い色を見せてくれました。

雑草で困ると思っていたとしても、草木染めを始めると、じつはそれは宝の山のように、地球からの贈り物のように思えてきたりします。こうして、自然の見え方や、自然との距離感が変わってくるのも、草木染めの面白いところかなと思っています。




日本茜を楽しむ会

もうひとつ、11月には大事なイベントがありました。

11月16日には、FUJIHIMUROのどよういちと合わせて「日本茜を楽しむ会」というイベントが開催されました。

富士吉田にて日本茜の栽培をされている農家さんと、茜を使いたかったり興味があったりする方が集える場所として、日本茜のお話や、作家による色見本の展示、そして日本茜の収穫体験が開催されました。

私も参加作家として、事前に日本茜の乾燥根を少しお預かりして、染まる色を実際にお見せしてお伝えできるように準備していきました。

シルク・リネン・コットンを、色々な条件で染めてみたところ、同じ植物、同じ媒染でも(鉱物)ゆたかな色味のバリエーションがあらわれてくれました。

どの色も澄んでいて、私の好きな色ばかりで嬉しくなりました。

同じく参加作家として参加された和紙の西嶋和紙さん、羊毛のにじぐもさんとともに、展示させていただきました。

同じ農家さんの日本茜で染めていても、染める素材の違いやテイストの違いがあることが面白く、ゆたかでいいなぁと思いました。

私が用意した色見本は、夕焼けか朝焼けのようなオレンジ色から、ピンク、そして赤みが差した朱色に近い色、そして紫色にもなりました。

これを染める実験をするのに、丸2日ほど無心で何度も液をつくって染めていました。

また、当日は、表地は日本茜で染めたリネン、裏地は日本茜で染めたコットンを縫って、ちいさめのポーチなども作っていきました。どちらも、同じ日本茜の色です。個人的にもとても好きな色でした。

そんな日本茜を上手に育てられている農家さんの佐藤さん。日本茜を育てる難しさなどを話してくださいました。

実は私も、数年前に日本茜を育てていたことがあったのですが、根を育てるというのは難しいなと思ったものでした。掘りあげてみないと根がどう育っているかわからないし、地上部が元気だからといって根がその分育っているかは別のお話。

2年植えておいたものを掘ってみたときに根っこが小さすぎて、染められるほどもなく、ちょっと残念でした。そして根を掘り上げてしまえば、また一からはじめないといけないので、いつかまたと思いつつも、一旦育てるのをやめてしまったままでした。

ほかにも、佐藤さんによると、日本茜は種の発芽率もとても低いそうです。

また、もともと野草であるため、手をかけすぎても不自然で、野草を人が育てるということの難しさもあるそうです。暑さにも弱いらしく、近年の気候変動にも生育が左右されているそうです。

日本の古来から染められてきた植物だけれど、栽培の難しさもあるし、購入もなかなかできない。

私は草木染めをするので、茜というと、西洋茜は染料店で購入して使うことがよくあります。でも、日本茜はまず売っているところがとても少なく、売っていたとしてもとても少量で高価で、大体売り切れています。

西洋やインドの茜の方が色素の含有量も多く、購入もしやすいため、日本茜がより貴重になっていったのも頷けます。

でも、富士山の麓で、こうして日本茜を育てている方がいる。

かつての魏志倭人伝の記述には、卑弥呼が贈ったもののなかに茜で染めた絹も記載があるそうです。それほどまでに古くから、日本で育ち、染められてきた日本の茜の色。しかも富士山の麓で育った日本茜。それは染めてみたいし、色を感じてみたい。そう思いました。

そして実際に染めてみて、海外の茜とも全然また違った感覚でした。

さてイベント当日、お話のあとには移動して、収穫体験でした。

毛細血管のような細い根を切らないように、まずはユンボで土を大きめにゆすってもらい、あとは手で、根を切らないように土をほぐしながら掘り出していきました。

横から見るとこうして細い根がたくさん。よく見ると黄色っぽい色だったり赤っぽかったり。

ものによって、根が大きいものや小さめのものもありました。掘ってみないと根がどうなっているのかわからないです。

地上部に実ができているものもありました。この実は黒っぽい色をしています。

収穫をして仕分けをして、イベントは終了となりました。

イベント終了の翌日には、私は土を落とすために軽く水洗いをしてみました。

土を落とす前の根です。晴れのもとで見るとより黄色っぽく見えます。

かるく洗ったあとの根は、土がなくなった分、透明感が増していました。

試しに生の根を使って染めてみることにしました。乾燥していた根よりも濃い染液になりました。

煮ていると根は赤っぽく見えます。

色見本に加えられるように、シルクやリネン、コットンを染めていきました。

生根で染めるとどのような色になるかは、またいつか。

収穫した私の手元の日本茜は、まずは1月ごろに、これまで基礎講座を修了してくださった経験者の方向けに日本茜染めワークショップを開催しようと思っています。

また、佐藤農園さんと、今回の「日本茜を楽しむ会」を企画された装いの庭さんを中心として、日本茜のプロジェクトはこれから始まっていきます。日本茜に集い、人がつながりながら、農家さんと日本茜を育てて収穫するプロジェクトは、来年2月ごろ、詳細や参加者の募集が始まるそうです。

染色をしたい方、また染色だけにとどまらず、日本茜を漢方として使用したい方、顔料として使ってみたい方、植物として興味がある方にもおすすめかと思います。

今回のイベントでも、色々な方とお話できたり、広がりがあって面白いなと思いました。日本茜と親しむ人が少しずつ増えていくのも素敵だなと思います。

このように、秋の実りも感じつつ、来年に向けたはじまりの兆しも感じた、充実した11月でした。

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藤崎 仁美

〈いのちの草木染め〉主宰

出身地
愛知県名古屋市

プロフィール
大学在学中、〈フジファブリック〉のイベントのために、はじめて富士吉田へ訪れる。卒業後は愛知県のエンジニアリング会社で総務・NX(3DCAD)の講師を務める。そのころ、仕事のかたわら週末に京都の学校に半年間通い、草木染めや手織りを体験。染織や自然と親しむ暮らしがしたいと思うようになる。
2015年、〈宮下織物株式会社〉へ入社するために富士吉田市へ移住。未経験から、ジャカード織物の機織り職人として6年間勤務し、2022年春に退職。
富士吉田に移住してからは、ハーブを育てたり草木染めをする暮らしを楽しむ。
2023年から〈いのちの草木染め〉として、草木染めワークショップや基礎講座を開催するほか、作品制作、出張ワークショップなども行っている。

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